高度プロフェッショナル制度の問題点 対象チェックツールで自分への影響を確認

2019年に施行された高度プロフェッショナル制度が普及しない理由とは。制度の問題点(残業代消滅・長時間労働リスク・対象拡大リスク)と、対象業務・年収要件・同意の撤回権まで、労働者視点でわかりやすく解説します。

高度プロフェッショナル制度の問題点 対象チェックツールで自分への影響を確認

高度プロフェッショナル制度はメリットだけでなく問題点についても知っておくべき

高度プロフェッショナル制度(通称「高プロ」)は、2019年4月の働き方改革関連法施行に伴い導入された。しかし、施行から数年が経過した現在も普及は進んでおらず、厚生労働省のデータによれば導入企業数は極めて少ない水準にとどまっている。制度の理念と実態の間に大きなギャップがあり、問題点への懸念は今なお続いている状況だ。

高度プロフェッショナル制度を正しく理解するためには、メリットだけでなく問題点についても把握しておくことが不可欠だ。ここでは、制度の基本的な仕組みを確認した上で、主な問題点を整理する。

高度プロフェッショナル制度が目指すもの、メリットを考えてみよう

高度プロフェッショナル制度の抱える主な問題点にはどんなものがあるの?

オフィスの灯り

高度プロフェッショナル制度の問題点を理解するには、まず制度の基本的な仕組みを押さえておく必要がある。

高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件(年収1,075万円以上)を満たす労働者を対象に、労働基準法に定められた労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度だ(労働基準法第41条の2)。労働時間ではなく成果によって報酬が決まる、いわゆる「成果型労働制」の一形態である。

対象業務は厚生労働省により以下の5つが定められている。

  • 金融工学等の知識を用いた金融商品の開発業務
  • 投資判断に基づく資産運用・有価証券売買(ディーリング業務)
  • 専門知識に基づく投資助言(アナリスト業務)
  • 経営戦略に関する調査・分析・助言(コンサルタント業務)
  • 新技術・新商品・新サービスの研究開発業務

この制度の主な問題点は、大きく3つに整理できる。「残業代・各種手当が消滅するリスク」「過労死につながる長時間労働の横行リスク」「対象範囲が拡大するリスク」だ。それぞれを詳しく見ていこう。

⚖️
高度プロフェッショナル制度 対象者チェック
自分が対象となる可能性があるかを簡易確認
Q1. 年収は1,075万円以上ですか?
Q2. 金融商品開発・ディーリング・アナリスト・コンサルタント・研究開発のいずれかに従事していますか?
Q3. 勤務時間の裁量が自分にあり、業務の進め方を上司から細かく指示されることはほとんどない

高度プロフェッショナル制度が「残業代ゼロ法案」と言われる理由

頭を掻く男性

高度プロフェッショナル制度が反対派から「残業代ゼロ法案」と呼ばれる理由は、制度の適用によって時間外手当・休日手当・深夜手当のいずれも支払われなくなるからだ。

通常の労働者であれば、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた残業には25%以上の割増賃金が支払われる。深夜労働(午後10時〜翌午前5時)には25%、法定休日の出勤には35%の割増が義務付けられている。ところが高度プロフェッショナル制度が適用された労働者は、何時間働いても、何時に働いても、休日に出勤しても、追加の手当は一切発生しない。

問題の本質は、「仕事の量を誰が決めるか」という点にある。どれだけ成果型の制度を導入しても、仕事量を決定するのは企業側だ。「終わらないほどの量の仕事」を持ち込まれ、成果達成のために長時間働かざるを得ない状況になっても、残業代が発生しない。「残業代を支払わずに仕事量だけを維持する」という目的で制度が悪用されるリスクが、批判の核心にある。

人事・労務の観点から見ると、制度導入前に「成果をどう定義するか」「評価基準をどう設定するか」を明確化しないまま運用を開始してしまう企業が多い。評価基準が曖昧なまま残業代だけが消滅すると、実質的にサービス残業の合法化になりかねない。

通常の労働保護と高度プロフェッショナル制度の違い

項目通常の労働者高度プロフェッショナル制度の対象者
時間外手当(残業代)25%以上の割増賃金支払い不要
休日手当35%以上の割増賃金支払い不要
深夜手当25%以上の割増賃金支払い不要
労働時間の上限原則週40時間(特別条項あり)適用なし
休憩規制6時間超で45分・8時間超で60分適用なし

高度プロフェッショナル制度が都合のいいように使われるリスク

遅くまで仕事をする女性

「成果主義」の名のもとに制度が都合よく使われるリスクは、残業代の問題にとどまらない。知的労働においては、「業務に従事する時間」と「仕事のことを考える時間」を明確に分けることが難しい。通勤中の電車で企画を練り、自宅で資料を見直す——こうした時間も含めれば、実質的な労働時間はさらに長くなる。

また、成果物の評価を相手側が行う業種では、制度との相性が特に悪い。「やり直せ」と言われ続ければ、どれだけ働いても成果として認められず、報酬に結びつかない。デザイナー・エンジニアなど創造的な職種が現行の対象業務に含まれていないのは、こうした事情も関係していると考えられる。

さらに、「高プロを適用しているわけだから、いつでも連絡が取れて当然だ」という暗黙のプレッシャーも問題になりやすい。オン・オフの境界が曖昧になり、精神的な休息が取れなくなるリスクがある。

人事担当者の立場から見ると、企業側のデメリットとして見落とされがちなのが「業務指示の制限」だ。高度プロフェッショナル制度が適用された労働者に対しては、業務量に比して著しく短い期限を設定するなど、実質的に労働時間を指示するような具体的な業務指示が禁止される(厚生労働省パンフレット「高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」参照)。進捗管理のあり方を根本的に見直す必要が生じるため、導入ハードルが高い。

高度プロフェッショナル制度が過労死を促進するって本当?

テーブルで寝る女性

過労死への懸念は、高度プロフェッショナル制度をめぐる議論の中で最も深刻な問題点として取り上げられてきた。

厚生労働省は「過労死ライン」として月80時間の時間外労働を基準値として定めている。これを超えると、脳・心臓疾患の発症リスクが統計上有意に高まるとされる。国の調査によれば、雇用者の約10%がこの基準を超える残業をしている実態がある。

健康確保措置の内容と限界

高度プロフェッショナル制度には一定の健康確保措置が義務付けられている。具体的には、「年間104日以上・4週間に4日以上の休日確保」と、以下の選択的措置から1つ以上を実施することが求められる。

  • 勤務間インターバル11時間以上の確保(深夜業は月4回以内)
  • 健康管理時間の上限措置(1か月または3か月の期間内での上限設定)
  • 年に1回以上の継続した2週間以上の休日付与
  • 一定時間超の労働者への臨時健康診断の実施

しかし、この健康確保措置には実効性を疑問視する声が多い。年間104日の休日確保は週休2日制と同水準であり、夏休みや年末年始の休暇が保障されるものではない。また、選択的措置の中で最も企業に負担が少ない「健康診断の実施」を選ぶケースが多くなると想定されるが、健康診断で問題が見つかっても、企業が適切な対処を講じる義務は必ずしも明確でない。

さらに、通常の労働者に対する医師面接指導の基準が月80時間超であるのに対し、高度プロフェッショナル制度の適用対象者については月100時間超と設定されており、一般労働者より過重労働を許容する水準になっている点も批判を招いている。

「過労死ライン」である月80時間を超えても、高度プロフェッショナル制度の対象者には医師面接指導の申し出義務が自動的に発生するわけではない。月100時間を超えた場合は労働者からの申し出がなくても面接指導が実施される仕組みだが、この100時間という基準自体が過労死ラインを20時間も上回っている点は制度上の大きな問題点として指摘されている。

人事・労務の実務から見ると、高度プロフェッショナル制度の健康管理において難しいのが、「本人が申告しない」問題だ。成果評価を気にする労働者は、体調不良を申告したり、健康診断で問題を指摘されることが自分の評価に悪影響を与えるのではないかと恐れて、不調を隠しやすい。制度の設計上、この心理的ブレーキへの対策が不十分だという指摘は多い。

高度プロフェッショナル制度の拡大が懸念される理由

研究開発

現行の高度プロフェッショナル制度は、年収1,075万円以上という高い条件と、5つの対象業務に限定された制度だ。しかし、対象業務は「厚生労働省令で定める業務」と規定されており、国会での議論を経ずに省令の改正だけで拡大できる仕組みになっている。年収要件も省令で定められた「目安」に過ぎない。

この懸念が現実のものだと感じさせるのが、「労働者派遣法」の前例だ。1986年の施行当初、派遣法は専門的な13業種に限定されていた。しかし、1999年の対象業務の原則自由化、2004年の製造業への拡大を経て、現在では労働者の約4割が非正規雇用という状況になっている。専門的業種に限定した制度が徐々に拡大していった歴史的経緯が、高度プロフェッショナル制度にも同じことが起こり得るという懸念の根拠になっている。

また、経済界はかねてより対象業種・年収要件の拡大を求めており、年収要件の大幅引き下げを主張する声も過去に出ていた。企業側の視点では、人件費管理の柔軟化というメリットがあるため、対象拡大への圧力は今後も続く可能性がある。

拡大した場合のリスクが大きい職種とは

SEやプログラマーなどのIT職種は、もともと残業が発生しやすい業種だ。しかし、成果物は顧客の評価によって左右され、「やり直し」が繰り返されることも珍しくない。こうした職種に高度プロフェッショナル制度が適用された場合、いくら長時間働いても成果として認められなければ追加の手当も得られないという状況が生まれかねない。

また、現在は対象外の業種であっても、省令改正ひとつで翌日から対象になる可能性がゼロではない。自分の業種が将来的に対象になる可能性を念頭に置いておくことは、特に若手・中堅の労働者にとって重要な視点だ。

実態として高度プロフェッショナル制度はどれだけ普及しているか

施行から数年が経過した現在、高度プロフェッショナル制度の普及状況はどうなっているか。厚生労働省が公表したデータによれば、国内における制度の導入企業数は極めて少ない水準にとどまっており、制度が広く定着しているとは言い難い状況だ。

普及が進まない理由としては、導入要件の複雑さが挙げられる。制度を適用するには、労使委員会の設置・5分の4以上の多数による決議・労働基準監督署長への届出・対象労働者本人の書面による同意・健康確保措置の実施、という複数のステップを踏む必要がある。大企業でも運用開始までのハードルが高く、中小企業では導入自体が困難なケースが多いとみられる。

また、「成果をどう定義・評価するか」という根本的な問題が解決されていない企業が多いことも、普及を阻む一因だ。成果評価の仕組みが整備されていないまま制度だけ導入しても、実態は単なる残業代カットになりかねない。

人事コンサルティングの現場から見ると、高度プロフェッショナル制度の導入を検討する企業は増えているが、実際に導入に至るケースは少ない。「制度を導入することが目的になっている」という状態で動き出し、成果評価制度の整備が追いついていないことに気づいて立ち止まるケース、あるいは対象候補の従業員が同意を拒否するケースが多いとされる。

高度プロフェッショナル制度のデメリットを避けるためにも知識は大切

勉強する男性

高度プロフェッショナル制度には、本人の書面による同意が必要だ。同意した場合には労働基準法第4章の規定が適用されなくなるという重大な変更であり、「会社から言われたから」という曖昧な形で署名することは避けなければならない。

同意を求められた場合に確認すべきポイントは次の通りだ。

  • 成果の定義と評価基準が明文化されているか
  • 健康確保措置の具体的な内容(選択的措置の種類)は何か
  • 健康管理時間の把握方法はどうなっているか
  • 同意を撤回した場合の取り扱いはどうなるか

また、高度プロフェッショナル制度には同意の撤回規定がある。対象労働者は、制度の適用に同意した後も、所定の手続きを経て同意を撤回し、通常の労働時間規制の適用に戻ることができる。この権利があることを知っておくことも重要だ。

自分の業種・年収が現行の対象要件を満たしていない場合も、対象範囲の拡大に備えて制度の動向を継続的に把握しておくことが重要だ。特に、省令改正によって対象業務が追加されるタイミングを見逃さないよう、厚生労働省の発表や労働関連ニュースに目を向けておく習慣を持つことをすすめる。

高度プロフェッショナル制度についてよくある疑問

「高度プロフェッショナル制度」を調べる人の多くは、制度の基本的な仕組みだけでなく、「自分が対象になりうるか」「同意を迫られた場合はどうすればいいか」「実際に何が変わるのか」といった具体的な疑問を持っている。以下に代表的な問いをまとめた。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は何が違うのか

よく混同されやすいが、両者には明確な違いがある。裁量労働制は「みなし労働時間」を設定して賃金を計算する制度で、労働基準法の範囲内で運用される。深夜手当(午後10時〜翌午前5時)は引き続き支払われ、年収要件も存在しない。一方、高度プロフェッショナル制度は労働基準法の労働時間・休憩・休日・割増賃金に関する規定そのものが適用されなくなる。深夜手当も休日手当も一切発生しない点が裁量労働制との最大の違いだ。また、対象者に年収1,075万円以上という要件が設定されている点も異なる。

高度プロフェッショナル制度に同意を強要されたらどうすればいいか

同意は本人の意思に基づくものでなければならず、強制は認められない。仮に「同意しないなら不利益な扱いをする」というプレッシャーをかけられた場合は、それ自体が問題のある行為になりうる。同意を強要された、または同意を撤回したいという状況では、都道府県の労働局や労働基準監督署に相談することができる。制度の対象となる年収層の労働者には、労働市場でのポータビリティ(別の職場に移る選択肢)があることを忘れないでほしい。

対象外の業種でも今後影響を受ける可能性はあるか

可能性はゼロではない。対象業務は厚生労働省令で定められており、省令の改正だけで追加が可能だ。過去の「労働者派遣法」が当初13業種から全業種へと拡大した前例を踏まえると、今後も対象範囲が広がる可能性は十分に考えられる。また、年収要件も省令で定められた「目安」であるため、引き下げが行われる可能性を完全に排除することはできない。

高度プロフェッショナル制度は労働者にとってデメリットしかないのか

本人の意思と制度の運用次第では、メリットを享受できるケースもある。業務を効率的にこなすことで労働時間を大幅に短縮し、結果的に収入を維持しながら自由な時間を増やすことができた事例も存在する。育児・介護との両立を図りたい高年収専門職にとっては、働き方の自由度が高まるというメリットがある。問題は制度そのものではなく、「成果評価の基準が曖昧なまま適用される」「仕事量の調整権限が企業側にある」といった運用上のリスクにある。制度を自分にとって有利に機能させるには、同意前に評価基準・健康確保措置・同意撤回の条件を明確に確認しておくことが不可欠だ。

高度プロフェッショナル制度を正しく判断するために知っておくべきこと(独自トピック)

制度への賛否は、立場や状況によって大きく異なる。ここでは、制度を受け入れる前に労働者が自分で確認すべき事項を整理する。

「本人の同意」は形式だけになっていないか

高度プロフェッショナル制度の適用には、本人の書面による同意が必要だ。しかし、採用・入社時の契約書に含まれていたり、人事評価のタイミングで「同意するのが当然」という雰囲気の中で署名を求められるケースが現実には起こりうる。

制度の趣旨から言えば、同意は本人が内容を十分に理解した上で、自由な意思に基づいて行わなければならない。同意書に署名する前に、少なくとも以下の3点を確認することが重要だ。

  • 自分の業務内容が対象5業種のどれに当たるかが明確に示されているか
  • 健康確保措置として何が実施されるのかが具体的に説明されているか
  • 同意を撤回する手続きと、その後の処遇の変化について説明されているか

同意を撤回した場合、通常の労働時間制度の適用に戻ることができる。この権利は労働基準法に定められており、同意撤回を理由とした不利益な扱いは許されない。

「高スキルな自分には有利」という思い込みに気をつける

高年収の専門職ほど、「自分なら短時間で成果を出せるから高度プロフェッショナル制度は有利に機能する」と考えがちだ。しかし、採用現場での実態を見ると、制度の適用後に想定外の問題が起きるケースがある。

具体的には、「成果の水準をどこに設定するかは企業が決める」という構造上の問題だ。制度を適用される前と後では、求められる成果の水準が引き上げられるケースがある。「残業代を払わなくて済む分、より高いアウトプットを期待する」という運用になれば、結果的に以前より多くの時間を仕事に費やすことになりかねない。

制度を自分に有利に機能させるには、「成果の定義を契約時に明確化する」「達成可能な目標水準であることを確認する」「健康管理時間が増加した場合の対処をあらかじめ取り決める」という三点を、同意前の交渉段階で押さえておくことが現実的な対策になる。

高度プロフェッショナル制度の問題点を知り、動向に注意しよう

高度プロフェッショナル制度は2019年4月に施行されたが、普及は限定的にとどまっており、制度をめぐる議論は今なお続いている。残業代・各種手当の消滅リスク、長時間労働・過労死への懸念、そして対象範囲拡大による影響の広がり——これらの問題点は、制度の仕組みの中に構造的に埋め込まれているものだ。

現時点で対象外であっても、省令改正によって状況が変わる可能性は否定できない。制度の目的と問題点を正しく理解し、自分の権利(同意・同意撤回)を把握した上で、制度の動向を継続的に追うことが、自分の働き方を守る上での第一歩になる。