高度プロフェッショナル制度が目指すもの、メリットを考えてみよう

高度プロフェッショナル制度のメリットは個人だけでなく企業や国にも及ぶため、政府の進める働き方改革の中でも特に重要視されています。正しく制度を理解して利用することは、そのメリットを受けるためには欠かせません。基本的な情報についてインタビュー形式で分かりやすく紹介します。

高度プロフェッショナル制度が目指すもの、メリットを考えてみよう

働き方改革で注目される高度プロフェッショナル制度

現在、内閣が少しずつ進めている働き方改革ですが、その中で常に形を変えて議論されているのが「高度プロフェッショナル制度」です。略して「高プロ制度」と言われることもあります。専門性の高い一部の職種で、一定以上の年収があることを条件に労働時間に関する決まりを無しにする制度です。

大学生の酒井君は、ニュースなどでは目にするものの高度プロフェッショナル制度について詳しくはわからない一人です。酒井君は知人の経営コンサルタントであるK・エーイさんに尋ねてみることにしました。

高度プロフェッショナル制度ってどんなもの?

自宅で仕事をする女の人

―エーイさんおはようございます!今日は「高度プロフェッショナル制度」について教えてください!

「高度プロフェッショナル制度」ですか。多分、しばらくは酒井君には縁がない気がするんですが、どうしたんですか?

―まあ、ニュースで気になったのと、やはり時事問題は就活などで知らないと困るじゃないですか。でも、ぶっちゃけよくわからないんです。裁量労働だのホワイトカラーエグゼンプションだの難しい言葉もいっぱい出てくるし。

うーん、いろんな情報がありますから、仕方ない面はありますね。まあ、酒井君の立場なら、制度がガッチリ決まってからでも細かい理解は遅くないと思いますので、単純化して「専門性のある知的労働者は労働時間でなく成果主義で報酬をもらう制度」と思っておけばいいですよ。

―そんなものなんですか?

はい。そんなものと言えばそんなものです。ただし、細かくは様々な条件がつきますが、制度自体を理解するためにはあまり些末にこだわると混乱を招くだけですからやめておきましょう。

高度プロフェッショナル制度は誰にとってメリットがあるの?

コーヒーのカップ

―高度プロフェッショナル制度は「労働時間でなく成果主義で報酬をもらう」ということなんですが、これってやっぱりメリットがあるんですか?

そりゃあもう、メリットはいっぱいありますよ。小学校で算数のプリントとか早く終わったら、やることが無くても授業時間は机に座ってないといけないでしょ?それと同じことがオフィスではけっこう起こるんですよ。

―なるほど!自分のプリントが終わったら教室を出て遊んでいいみたいなことですか!

そうそう。能力的に優秀な人なら、そういう場面が学校でもオフィスでもあるんです。それなのに時間で管理されてしまうから、自由に時間を使えないんです。さらに言えば、その仕事がない状態の人にも支払うべき給料は発生しますから、会社としても損なんですよ。

―つまり、優秀な人と会社にとってメリットがあるってことなんですね。

もうちょっと言えば、この問題が解決することによって、余暇時間ができた人が他の活動をするようになることが期待されています。その時間で育児や介護をしたり、自分の健康管理に時間を使ったりしてくれるなら、社会的な問題の解決にも役立ちそうですよね。

―なるほど、地域社会や家族にもメリットがあると。

さらに言えば、労働時間の縛りが無くなることで仕事ができるようになる人も発生するかもしれません。それによって全体の競争力を高めようと国も考えているんです。

―え、じゃあ、国にも地域にも会社にも個人にも家族にも、みんなにメリットがあるってことなんですか?

そう、高度プロフェッショナル制度だけではありませんが、いわゆる「働き方改革」というのは個人から国のレベルまで、働き方を現在の状況に見合ったものに変えることによって全体に有益な状態を作っていこうという大きなプロジェクトなんです。

高度プロフェッショナル制度のメリットはどんなもの?

フリスビーを投げる男の人

―高度プロフェッショナル制度では広い範囲にメリットがありそうですね。では、具体的なメリットについてもう少し教えていただけますか?

そうですね。では、個人から考えてみましょう。個人の場合は、先ほど言ったような「労働時間に縛られない労働が可能になる」ことで「ワークライフバランスの自由度が上がる」、そして「余暇時間の増加」などが主なメリットになります。

―会社に朝行って、夕方や夜に家に帰る労働スタイルが変わっていくってことですね。

そういうことになるかもしれませんね。まだ対象範囲が狭いのですぐには難しいでしょうけど。

―それでも理想に近づく気はしますので希望的です。会社にとってはどうですか?

会社にとっては「残業代の削減」や「生産性アップ」「優秀な人材の確保」などが期待できますので、多くの企業にとって好ましい政策だと言われています。

―確かに、仕事をちゃちゃっと終わらわせて帰って良いなら、それが会社のためにも良いんでしょうし、僕たち学生から見ても魅力的な企業に見えますね。

そうでしょうね。そして、国や地域社会としては、「国際的な競争力の維持・強化」や、「個人の社会活動の促進」などが期待できます。このあたりは少子高齢化の影響が大きくなって、国家の財政事情がひっ迫してきていることも関係していて、特に期待が大きいですね。

高度プロフェッショナル制度のメリットを引き出すにはどうするべき?

名刺を持った男の人の手

―なるほど。これだけ聞くと高度プロフェッショナル制度はとても良い制度に思えるんですが、そのメリットを上手く引き出す方法とかあるんですか?

そのあたりがちょっと難しいというか、これからたくさん議論されて成熟していかないといけないところだと思いますね。

―と仰いますと?

現状、高度プロフェッショナル制度は「平均的な年収の3倍程度の収入がある専門性の高い一定の職種」の人が対象になっているんです。金融ディーラーとか研究開発職とか。

―あれ?じゃあ、大部分の人は関係ない?

そうなります。ただし、以前に議論に挙がったホワイトカラーエグゼンプション(知的労働者や管理職などでみなし労働時間を採用する制度)では、経団連などは年収400万円以上から対象にしたいと希望していたので、対象範囲が拡大される可能性は十分あります。

―メリットを受けるには、そういう職に就いて、年収をまず増やさないといけないってことでしょうか?

現状はそうなりますが、それでもそういう対象者が必ずメリットを受けられるとも限らない面があるんですね。そこで重要になるのが「交渉」です。

―え?交渉があるんですか?誰が何について交渉するんですか?

高度プロフェッショナル制度では、企業側と従業員側で高度プロフェッショナル制度を使用するか、またその際の成果や報酬などに関して、交渉に基づいた契約をすることになっているんです。

―何だか個人に外注するみたいですね。もしくはプロスポーツ選手と契約するみたいな。

そのイメージに近いですね。それも含めてプロフェッショナルとして扱ってくれるわけですね。しかし、その際にしっかりした交渉ができないと、かえって報酬のために終わりようのない仕事を抱えてサービス残業地獄になってしまうこともあります。逆に、自分のワークライフバランスを考えながら、求められる成果と報酬、労働時間を最適化できる可能性があることは大きなメリットです。

―高度プロフェッショナル制度を使うというだけではなく、より自分にとって有利に使えるように考えておく必要があるということなんですね。強制でもないなら、労働者にとって有利な感じがしますね。

そうかもしれませんね。企業側もこの制度のメリットをしっかり受けようと思ったら、しっかりと成果を評価する基準を定めることや、全体の業務への影響を考えながらバランスを取ることが必要となってくるでしょう。有能な人が本来の業務ではなくカバーしていた仕事がたくさんあるかもしれず、その一人が自由に帰ってしまうことで他の人の仕事が進みにくくなることもありますから。また、労働者個人と個別に契約をするということは管理も煩雑になりますから、見合ったメリットが出るように工夫が必要です。

―企業側にとっては高度プロフェッショナル制度の導入は大変なんですね。でも、それでも導入を希望するということは、それだけ残業代の削減などを通して企業にもメリットが期待できるってことですね。

高度プロフェッショナル制度のメリットはプライベートで発揮される

スマホを操作する男の人

―個人的には高度プロフェッショナル制度のメリットって個人のプライベートにあるって気がするんですけど、当たってますかね?

どうしてですか?

―だって、自由な時間が増えればその時間でもっと仕事の専門性を高めて効率化しちゃえば、もっと時間が増えるってことでしょう?同じような成果が求められるならですけど。

はい。それはその通りですね。必ずしもそう上手くはいかないだろう仕事が今は多いですが、そういう可能性は十分にあります。

―それに、余った時間はプライベートとして自由に使えるなら、遊びに社会活動に自己啓発に使い放題じゃないですか。会社によっては副業なんかもできちゃんじゃないですか?毎日8時間は会社に縛られる人たちとは人生の満足度みたいなものが違ってくるんじゃないかなと。

そうなるかもしれませんね。高度プロフェッショナル制度を使えるかどうかで、いろんな面で格差が生まれたり開いたりする可能性もありますね。高度プロフェッショナル制度は、よりできる人にとってはとてもメリットの多い制度ですから。

高度プロフェッショナル制度って本当にメリットがあるの?

高度プロフェッショナル制度って本当にメリットがあるの?

―でもエーイさん、そんなメリットが多いように思える高度プロフェッショナル制度がどうしてすぐに施行されないんですか?やっぱ何か問題があるんでしょうか?

そうなんですよね。高度プロフェッショナル制度には、確かに今まで挙げてきたようなメリットはあるんです。しかし、ここで気を付けておかないといけないのは、モデルケースではこういったメリットがたくさんあるとしても、個別のケースではそうではないことも多いということです。

―じゃあ、本当はメリットが無いってことなんですか?

そこについてはケースバイケースとしか言いようがありません。そもそもこうした話が出てきた背景には、日本の産業構造の変化などもあります。労働時間による管理は1次産業・2次産業などを管理するためだったのですが、今は3次産業が70%以上となってきており、実情に合わないと判断されたからです。

―とすると、農業や工業に従事する1次・2次産業の労働者だとメリットが無さそうですね。

ほとんどの場合はそういうことになりますね。また、自由時間よりも残業代にメリットを感じる人だと、高度プロフェッショナル制度を会社側から提案されても拒否するでしょうし、さらに提案した企業に対して悪い印象を抱く恐れもあります。

―何だか難しいですね。企業で導入して運用するのが難しいということもあり、またデメリットみたいなものも存在しているということなんでしょうか。

そういうことになります。デメリットや問題点も多数抱えていることが、高度プロフェッショナル制度に対する議論が紛糾している一番の原因ですね。ただ、欧米などではすでにスタンダードな制度になっていますから、早晩導入されるようになるでしょう。そのため、制度を正しく理解し、うまく活用するための方法を考えておく必要がありますね。

―でも、正しく理解して活用するにはちゃんとデメリットや問題点も知らないといけませんよね?

そうですね。高度プロフェッショナル制度のデメリットや問題点についてはまた今度お話しましょう。とりあえず現時点では、高度プロフェッショナル制度は、様々なメリットを持っている制度だということや、近い将来に実現されるだろうものという認識は持っておいてください。

―わかりました。話を聞く前より、だいぶクリアになってきた感じがします。デメリットもちゃんと聞いておきたいなぁ。でも、確かに正直頭がいっぱいな感じです。また日を改めて伺いたいと思います。エーイさん、本日は朝からどうもありがとうございました!

高度プロフェッショナル制度はメリットを知り活かすことが大事

高度プロフェッショナル制度は、働き方改革の中で専門性の高い一定の職種に対して労働時間ではなく成果で報酬を決定するようにする制度です。個人や企業、社会に多くのメリットをもたらす可能性がありますが、内容をよく理解し、交渉を通してメリットを活かす形で契約を行う必要があります。内容の変更や対象の範囲の変更も含め、労働者が今後の動向には注意を払っておくべき制度のひとつだと言えます。