時差ビズは第二のクールビズになり文化として残るか

時差ビズは、東京都が働き方改革の一環として推進するもので、時差出勤や在宅勤務を促してラッシュアワー時の電車の混雑などの問題解決を目指しています。時差ビズの取組みや効果、現在の問題点や、今後の展望について紹介します。

時差ビズは第二のクールビズになり文化として残るか

東京発の時差ビズで日本の朝は変わるのか

毎日の朝のラッシュアワー、満員電車にすし詰めになりながら揺られて出勤という人も少なくないのではないでしょうか。通勤で心身疲れては本来の仕事にも悪影響をもたらします。東京都が働き方改革の一環として行い始めたのが通勤時間をずらすという「時差ビズ」ですが、効果や認知度などの面で賛否両論があります。

都内の大学に通う酒井君も、その時差ビズを頑張っている人の一人。朝活として、メンターと仰ぐ経営コンサルタントのK・エーイ氏との対話の時間を持つようにしていますが、ある日、時差ビズの話題になります。時差ビズについて一緒に考えてみましょう。

時差ビズは満員電車を回避するための方策

電車に乗る男性社員

―エーイさん、おはようございます。今日も早いですね。

ああ、酒井君、おはようございます。まあ、私はそれほど遠くないですからね。むしろ、毎日早くからこの時間に到着する酒井君の方が立派ですよ。家は少し遠いんでしょう?

―はい。でも、最近は時差ビズのおかげで臨時列車が出ていて、以前よりも気持ち楽に来れるようになっていますね。個人的にはおお助かりです。

おお、こんなところに時差ビズの恩恵を受けている人がいたなんて驚きです。私、フリーランスなので基本的に満員電車に乗らない生活をしてますから、時差ビズに実感が無いんですよね。

―そうなんですか?やっぱりあるのと無いのとは大違いなんだと思いますよ。時差ビズ。

そうなんですね。都知事が「満員電車を無くす」と選挙で公約した時は、無茶言うなあと思ったものですが、こういう形で実施するとは思ってなかったですね。時差通勤やテレワークなどの在宅勤務を推奨することで通勤ラッシュを緩和するというのは面白い試みだと思います。

―時差ビズはエーイさんでも予想してなかったんですね。まあ、満員電車を無くすところまではまだまだなのかもしれませんけど、僕みたいな朝活派としては電車が増えたり、朝から開けてくれるお店が増えてやりやすくなりましたね。

そうなんですね。時差ビズのポスターはあちこちで見かけますが、時折耳に入ってくる情報では賛否両論ですから、どんなもんだろうと思っていました。時差ビズの効果を実感できているなら、良かったですね。

―はい。ただ、時差ビズって満員電車を減らすことが目的なんだろうとは理解できるんですが、腑に落ちない点も多いんですよね。僕はいいんですけど、そもそも何で生活のあり方にまで口を出されるんだろうかと。乗る電車なんて、個人で考えて決めればいいと思うんですけどね。

時差ビズは誰にとってメリットがあるの?

朝の電車の様子

酒井君の言うこともわかります。どの時間帯の電車に乗るかなんて、はっきり言って個人の自由ですからね。出勤時間が決まれば、自動的に時間が決まってくる人は多いとは思いますが、それでもある程度は個人の自由意志の範囲ですからね。

―それをあえて行政が頑張って時差ビズを推進しているということは、メリットがないといけないと思うんですけど、そのメリットって満員電車が減るってだけなんですよね。

あれ?それじゃ酒井君は納得できない?

―そうですよ。満員電車が減るのは、いつも満員電車に乗る人はいいですけど、僕みたいに元々ラッシュアワーを避けてる人は関係ないですし。そこに税金から予算出てるわけですから、時差ビズはみんなにメリットないといけないんじゃないですか?

おお、酒井君が今日はずいぶんとビジネス思考ですね。

―だてに朝活してません。いろいろ意識高いんですよ、僕は。

まあ、満員電車を減らす時差ビズは社会的には正しく、メリットのあることだとは思います。多くの人が満員電車にストレスを感じたり、疲労を感じたり、ケガをしたり物品の紛失や破損などの原因になっているわけですからね。

―確かにそう言われるとそうですね。

東京都は特に日中の人口が過密になりますから、それを時差ビズで緩和するということで都民の生活の満足度が上がるというのが目的のひとつですね。

―電車は都内だと生活の足ですから、そこが快適になれば生活は良くなった気がするかもしれませんね。

あと、鉄道会社としても時差ビズは助かるんです。あまりにも利用者が集中すると、それだけ事故や事件のリスクも高まりますし、設備の消耗も早くなります。それに、満員電車のために体調を崩す人が出てしまったり、ドアが閉まらなかったりすることで運行ダイヤも乱れてしまいます。ダイヤがちゃんと守られないと、みんな嫌でしょう?

―そうですね。電車遅れると困ります。でも、道路の渋滞などはあまり気にせず、通勤電車ばかりっていうのも違和感があります。

そうですね。少なくとも東京都では、より深刻なのは道路よりも満員電車ですから、まずはそこを時差ビズで改善しようということなのでしょう。

―個人として時差ビズは満員電車の利用者にはメリットがあると思いますが、他の人にはあまり関係なかったり、むしろ他の時間帯に人が増えて快適な時間が減ったという人もいます。

うーん、そこは難しい問題ですね。ただ、過密になっていた状態が緩和されることで、いろんな所に波及効果があるかもしれませんから、時差ビズに全くメリットがないという人は少ないのではと思います。

―個人へのメリットはまあまああるとしても、企業にメリットは何かあるんですか?時差ビズを頑張っている企業も1000近いと聞きますが。

時差ビズは、企業としてはあまりメリットはないでしょうね。ただ、メリットが出るように行政側が工夫をしようとしている雰囲気は感じます。主には内外へのイメージアップくらいでしょうけど、従業員がいい状態で出社してきてパフォーマンスが上がれば一番いいですね。

時差ビズの効果は本当にあるの?

電車から降りる人たち

―時差ビズって、効果については賛否両論なんですよね。本当に満員電車の解消に効果が出ているのか、僕もラッシュにあまりいないから正直わからないです。

ニュースなどで紹介されていたものだと、参加企業が多い駅の改札の通過人数が、ラッシュアワーと見られる時間帯で平均して2%強減っていたそうだけどね。

―2%強?それってすごいんですか?

うーむ、難しいところですね。もしも売上やGDPが2%強減ったと言われれば大きな問題ですけど、改札を通過した人数が2%強少なくなったと言われると、普通の人は効果をあまり感じられないかもしれませんね。

―そうですね。100人の教室から2~3人減ったところで、って感じですもんね。

輸送する側から見れば大きな変化なんでしょうけど、輸送される側からするとそこまで効果は無いのかもしれません。ただ、時差ビズは満員電車以外のところでの効果も考える必要はあるでしょう。

―満員電車以外の時差ビズの効果って何がありましたっけ?

たとえば、酒井君みたいに朝早く出てきて自分の時間を持つことによって、生活の質が上がったと感じられる人は多いみたいです。勉強したり、ゆっくりしたり、外で朝食食べてみたりとかね。

―ふむふむ。

また、お店などでは朝早くに出てくる人をターゲットにした企画を打つことができます。お客さんが少ない時間が一日の中で少なくなるのは商売をする上では助かります。

―なるほど。メインの満員電車についてはまだまだだけど、他の効果はボチボチあるって感じで考えておけばいいのかな。でも、時差ビズが今ひとつ人気が無いのって、何が問題なんでしょうね。

時差ビズが抱えている問題点とは?

改札口を通る人たち

まあ、時差ビズは社会的には良いことだと思うのですが、東京都だけでやっていてどの程度の効果が見込めるのかという問題がまずありますよね。

―あ、そうか。時差ビズって全国じゃなくて東京都だけなんでしたね。

そうです。東京で電車などを利用するのは東京都民だけでなく、周辺の県の利用者も多いのが特徴です。日中は東京都は実質2000万人以上の人がいると言いますから、東京だけで時差ビズをしてもさほど効果が出ないのかもしれませんね。特に強制力もないですし。

―今は外国人の旅行者も多くなっていますし、実感としてもあまり効果を感じられないのはこういう所に問題があるのかもしれないですね。

また、先ほども言いましたが、時差ビズは企業にもあまりメリットが無いんですよね。一方で、時間差通勤などを制度化するというのはパワーが要るので、負担の方が大きいかもしれません。

―それに、あまり時差ビズの恩恵を受けられない人もいますよね?

そうですね。それが一番大きな問題のひとつですね。もともとラッシュアワーを避けていた人にメリットが薄いという程度ならいいのですが、営業など顧客対応が必要な仕事の場合は結局相手次第になるため、出勤が早くなっても終わりは遅くならない可能性があります。また、子供を保育園などに預けている場合、時差出勤によってかえって保育料が延長料金や早朝料金がかかるなどの問題も出てきます。

―うわ、自分がそういう立場だったら怒りそう。

それが会社や行政から選択肢なく提案されたらみんな怒るでしょうね。だから企業側も色々選択肢を作ったり、制度や賃金などを考え直してさらに負担が増えるのでやりたがらない、という感じでしょうね。特に中小企業では人手も足りないからどうしようもない所も多いでしょうね。

今後の時差ビズの展望を考えてみよう

「協力しようよ」と強調をする女の人

―時差ビズって、メリットや効果があるのか無いのか今一つわからないのですが、今後どうなるんでしょうね。

まだメリットや効果が無いと決めつけるのは早計に過ぎるとは思います。何せ、まだ参加して取り組んでいる企業はごくごく一部に過ぎません。時差ビズの参加にメリットが感じられるようになり、多くの企業が参加できるようになれば、時差ビズの狙う効果は目に見えて出てくると思います。

―じゃあ、時差ビズの参加企業が増えることがまず大切なんですね。

はい。労働者は基本的に働く時間を決める権利は無いですから、会社側がまず時差ビズを使いやすい勤務体系を取り入れてくれないと始まりませんね。行政も参加企業を増やすべく働きかけていますから、今後は少しずつでも増えていくと思います。

―具体的にはどんな勤務体系が考えられるんですか?

たとえば、自分の働く時間を自由に決められるフレックスタイム制度があります。この制度を導入できればそれぞれが通勤時間を自由にずらすことができるので、少なくても満員電車に乗りたくない人にとっては好都合ですよね。

―それはいい!でも、会議の時間設定に困ったり、聞きたいことを聞ける人がその時間にいなかったりする不都合もあるんじゃないですか?

それは、企業が考えることです。コアタイムと呼ばれる必ずいなければならない時間を設けることで解消している企業が多いですよ。

―なるほど。デメリットがあるならいい方向に向かうように考えればいいわけですね。他にもありますか?

そうですね、他にはテレワーク制度も時差ビズを推進するにはピッタリの働き方です。会社ではなく家で仕事をするので、そもそも出勤する必要がないですから。

―時差ビズは、今は東京都の取り組みですが、他の地域にも広がる可能性はありますかね?

十分にあるんじゃないでしょうか。ただし、こうしたTDM(交通需要マネジメント)の分野というのは、地域特性に合ったものを作っていく必要があるため、東京と同じようにするのが効果があるとは限りません。地域に合った時差ビズが必要になるでしょうね。

―そういえば、満員電車で通学する友達に時差ビズを勧めたことがあるんですが、「面倒くさい」って言われてしまいました。面倒くさいって、結構高いハードルな気がするんですが。

まあ、出勤時間や登校時間が決まっている人にとっては、自分が一番楽と感じる時間に行けばいいと思います。そこまで強制できるのは企業や学校くらいですし、仕方ないんじゃないですかね。朝活ブームとか言っても、やる人はやる、やらない人はやらないで二分化したのと同じです。

―いいと思ったんだけどなぁ。

ははは。でも、この先を考えていくと、時差ビズは働き方改革ともマッチしていますから推進は続けて行われるでしょう。また、TDMの観点からはこういった政策を取らざるを得ない状況があります。もう、新しい道路や鉄道を作るという面では限界が近づいています。経路や輸送手段などの設備面での解決はコストを考えても難しく、時間で分散していくしかないんですよね。

時差ビズは「文化」にまでなってこそ成功

涼しい服を着る女性社員

そういえば、時差ビズではないですが、こういった官民の取り組みで成功した先例があります。

―何ですか?それは?

もうずいぶん一般化していますが「クールビズ」です。これも強制力がないものではありましたが、個人から企業まで参加して、気づけば夏はクールビズが当然になりましたね。

―言われてみると、クールビズって当然のようにみんな行っていますね。

はい。もう文化だと言っても良いと思います。ビジネスにもなりましたし、エコですし、何よりやっぱり涼しいっていうわかりやすいメリットがあったのが大きかったんじゃないかなと。始まる前は色々言われましたが、始まってみれば「クールビズでお越しください」ってステッカーを貼ったり、クールビズの実施をアピールしている企業も多く見られましたから。

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―じゃあ、「時差ビズでお付き合いください」みたいなステッカー作れば。

面白いかもしれませんね。でも、時差ビズはクールビズと違ってファッションでなく、実際の勤務時間や労働時間ですから、勝手されると困ります。取引先に勧めるのは難しいでしょうね。ただ、そうやってみんなで楽しくやろうという雰囲気があると長続きしやすいですし、文化にもなっていくんじゃないかと思います。時差出勤が普通になっている先進国もありますしね。

―なるほど。時差ビズが文化になる可能性もあるってことなんですね。時差ビズについてはエーイさんより知っているつもりで話始めたんですけど、気づけば結局たくさん教えてもらっちゃいましたね。でも、わかった分、価値を理解して時差ビズを楽しめそうです。ありがとうございます!

時差ビズはみんなで推進してこそ働き方改革になる

時差ビズは、「朝が変われば毎日が変わる」のキャッチフレーズのもと、時差通勤や在宅勤務などを推奨しながら、通勤におけるラッシュアワーの混雑の改善を促す東京都の取り組みです。強制力はないながらも、大企業を中心に参加企業が増えつつあり、今後は一層の広まりが期待されます。行政や企業だけでなく、個人も積極的に参加・推進してこそ、時差ビズは働き方改革としても効果的になりますので、通勤状況を見つめ考える機会としてみてはいかがでしょうか。