固定給のメリットや歩合給との違いは?給料が変わらないわけではない

固定給は見慣れた給与制度であり、よく知られてはいますが、給料が変わらないという誤解も多くされています。給与の計算や残業、有給の扱いなどを正しく理解することで、自分の給与が適正なものになっているのか一度考えてみましょう。

固定給のメリットや歩合給との違いは?給料が変わらないわけではない

固定給について「給料が一定額で変わらない」という認識しかない人が多い

固定給という給料の形は、多くの人が知ってはいると思いますが、「給料が一定額で変わらない」という以上の知識は無いという人も多いものです。給与について正しく理解していないと、思わぬところで損を被ることもありますし、給料を上げるために必要な行動も取れなくなってしまいます。

固定給は給料が変わらず安定しているとよく言われますが、そのイメージと実態にはやや違いがあります。ここでは、固定給についての正しい考え方や、メリットやデメリットなど基本的なことを確認してみましょう。

固定給とは毎月定められている給与のこと

固定給とは、企業などの団体に勤めている従業員に対して、基本給として毎月支払われる一定額の給与のことを指します。通常、固定給は、従業員の職位や役職、勤続年数、スキルや経験、勤務地などに応じて、あらかじめ決められた金額が設定されます。

固定給は、基本的には毎月一定の額が支払われるため、労働時間や成果による変動が少なく、安定した収入を得られるというメリットがあります。一方で、成果による評価が反映されないため、モチベーションが下がるというデメリットもあります。また、固定給以外に、成果に応じて支払われる変動給や賞与がある場合もあります。

固定給にはどんな特徴があるの?

会社勤めをしている場合、「固定給」という言葉を見聞きすることも多いはず。ここで、固定給には、どんな特徴があるのかを見ていきましょう。

固定給には手当が含まれる

固定給と似た概念に基本給がありますが、固定給は基本給と違い、手当の額が含まれています。そのため、追加で家族手当や住宅手当といったものは期待できないということです。この点を踏まえ、転職や新卒の就活の際には、求人票には額面が基本給で書かれているのか固定給で書かれているのか気をつけて確認する必要があります。

ただし、固定給には全ての手当が含まれているとは限りませんし、含めなければならないわけでもありません。出張手当のように、発生がランダムで金額も変動するようなものは別途支給になることがほとんどです。

家族手当や住宅手当などの毎月同額の支給が適当なものや、事務の簡便化のために一定額を支給するような場合の交通費などが固定給に含まれます。固定給の中の基本給や手当の内訳について知りたい時は給与明細や就業規則、雇用契約書などを確認してみましょう。

固定給と基本給と手当の関係

固定給でも残業代は支給される

固定給は額面が同じというイメージがありますが、残業が発生した場合にはきちんと残業代が支給されることに注意が必要です。固定給だからと残業代を払わないブラック企業もありますが、固定給でも本来は残業代が支払われます。

給与は固定給と残業代の和

割増賃金が発生する休日出勤や夜間労働も同様です。

残業代は基本給を基準に計算される

固定給で注意しておきたいのは、その内訳をしっかり確認しておくということです。固定給の額面は同じだとしても、その金額のうち、基本給と手当の内訳はしっかり確認しておかなければなりません。

なぜなら、残業代は基本給から割増して計算される賃金だからです。手当の額面が大きく、基本給の額が小さい場合には残業代も思ったほど支給されなくなります。

残業代と固定給と基本給と手当の関係

ボーナスや退職金も基本給を基準に計算される

ボーナスや退職金も残業代と同じように、基本給を基準に計算されていて固定給がベースになっているものではありません。そのため、固定給に多くの手当がついている場合は、その分基本給が低く抑えられているため、思っていたほどの金額にならないことがあります。

固定給で注意が必要な「みなし残業」

固定給となっている企業では、残業代も含めて固定化するために「みなし残業」を取り入れているところもあります。「みなし残業」は「固定残業」と呼ばれることもあります。

みなし残業は ひと月の残業時間を過去の実績などから予測して、その分の残業代を最初から固定給の中に手当として含み支給することを言います。この場合、もしも会社側の見込みよりも残業が少なかったとしてもその場合はみなし分の残業代を労働者は受け取ることができます。逆に残業が見込みよりも多くなってしまった場合は、残業時間と見合わない残業手当になることもあります。

しかし「残業時間に見合わない残業手当」は、労務上はみなし残業時間を一定の期間で融通することで調整している場合もあります。基本的にはみなし残業時間を超えた場合には、その分の残業代を会社側は払わなければならないことになっていますが、調整を行っている場合もありますので、気になるようなら労務の人に確認してみましょう。

あまりにもみなし残業時間と実際の残業時間の差が大きい場合には違法となる場合もありますし、残業代が適切に支払われていない場合も当然違法になります。このような場合は、労働基準監督署や弁護士などに相談してみてください。この時、タイムカードの記録や給与明細など、客観的な証拠となる記録が必要となります。

みなし残業と固定給の関係

固定給のメリット・デメリット

固定給のメリット・デメリットを整理してみましょう。固定給の場合、「収入が安定する」というメリットが大きいですが、そのようなメリットだけでなく、デメリットにもちゃんと目を向けておくことが大切です。

固定給のメリットは「収入の安定」や「給与計算が簡単になること」

固定給の一番のメリットは、「従業員の収入が安定すること」です。特に体調不良や冠婚葬祭などの急な用事があった場合にも、収入に大きな変化がないことがメリットです。収入が安定することで、生活上の計画なども立てやすくなります。

また、使用者側も「従業員の給与計算が容易に」なり、年間の人件費の把握なども容易で「経営計画が立てやすくなる」などのメリットがあります。

固定給のデメリットは「働く意欲が上がりにくいこと」や「基本給などへの関心が薄くなりがちなこと」

固定給のデメリットのひとつは、「仕事へのモチベーションが上がりにくいこと」です。どのような働き方をしても、同じ給料がもらえるために仕事に対して手抜きが起こりやすくなります。

また、固定給はその特徴から、「基本給や手当などへの関心が削がれがち」です。給与の実態が見えにくく、基本給の昇給なども低く抑えられてしまうことも少なくありませんが、その事に気づかずに不利な労働条件が作られても気づかない場合があります。

固定給だと有給休暇の扱いはどうなるの?

固定給の場合、月の労働日数や労働時間などに関係なく一定の給料が支払われるものと考えられています。その場合、有給休暇を取得することに意味が無いと考える人もいますが、これは間違った考え方です。固定給の場合に、有給休暇を取った時の扱いを見ていきましょう。

固定給でも欠勤は欠勤扱いになる

固定給だとしても、有給休暇や特別休暇制度を利用する以外で休みを取るなら、欠勤という扱いになります。給与にこの欠勤分が反映されるかは企業ごとの取り決めによる部分が大きいですが、いずれにしても有給休暇や特別休暇など定められた形以外で休めば欠勤扱いになります。欠勤になれば、人事考課やボーナスの査定などでマイナスになることは避けられません。

有給休暇を使った分として追加の給料はもらえない

有給休暇は「給料がもらえる休暇」というよりは「労働者の休む権利」です。そのため、「固定給だから有給休暇を使った分は追加の給料がもらえる」と考えるのではなく、「給料を引かれることなくしっかり休むことができる」と考えるべきです。あくまで有給休暇は、休暇を取ることによる経済的損失を軽減するための制度ということを覚えておきましょう。

固定給と労働日数については誤解が多い

固定給を採用している企業の中には、従業員がどれだけ働いたとしても毎月の給料は固定であると考えている企業もありますが、それは大きな間違いです。こうした問題は数多く起こっているため、人事のプロであればこのような間違いをすることはあまりあり得ません。

固定給でも法定労働時間は同じ

固定給だとしても、法定労働時間は労働基準法によって定められているものと違いはありません。雇用契約で別途定めていたとしても、法律上は違法となります。

そして、法定労働時間を超えた場合には、法に従って割増賃金が適用されます。法定労働時間の上限は、1日に8時間、週に40時間です。加えて、使用者は毎週1日の休日、もしくは4週を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

固定給だからといって、この法定労働時間を守らなかったり、割増賃金を払わなかったりしても良いということはありません。また、休日を与えなくても良いということもありません。

固定給の会社が、週に5日の勤務日を6日に増やしたとします。1日あたりの労働時間は8時間のまま変わらないとします。その場合、法定労働時間の上限一杯になりますので、1日増えた分の8時間には割増賃金(25%~50%)が適用されることになります。

そのため、固定給でも、増えた分の労働時間に割増賃金をプラスした分が給与額になっていなければなりません。また、夜間勤務や休日出勤なども、同様に割増賃金が適用されます。

固定給での有給休暇は出勤日扱い

固定給においては、有給休暇は使っても使わなくても同じだと考える人もいます。しかし、先に述べたように、実際には有給休暇を使わずに取得した休暇は欠勤扱いになります。

固定給の運用では「月に何日以上の出勤が必要」と条件が定められている場合が多く、欠勤が続けばこの条件を満たさなくなってしまいます。有給休暇を使った場合は、法律上出勤扱いとすることが保障されていますので、出勤日が不足して給料が保障されないということはありません。

固定給と歩合給の違いは?

固定給と歩合給は全く違う制度であり、組み合わせて使われている場合もあります。それぞれの特徴の違いについても理解しておきましょう。

固定給は賃金額が一定、歩合給は成果によって賃金が変動する

固定給は賃金の額が一定になっていますが、歩合給では売上などの成績や業績によって賃金額が変動する仕組みです。成果が賃金に反映されるため、やりがいや充実感などを感じられる一方で、仕事の違いによる成果をどう判断するかなどの問題もあり、運用にスキルが必要となります。

固定給は安定、歩合給は不安定

従業員の生活を考えた時に固定給は安定感のある仕組みですが、歩合給は不安定な仕組みと言えます。特に税金は前年度の所得に対してかかってくるため、歩合給では一度所得が落ちてしまうと所得の低下のみならず、前年度の高い所得を基にした高額の税金の支払いも必要となり一気に生活面で苦しくなってしまいます。そのため、歩合給では一度の昇給や減給に幅を設けている所がほとんどです。

また、最低限の生活費を保証する意味で固定給と歩合給を組み合わせるのが一般的です。

固定給と歩合給を組み合わせた場合の給与

この場合、固定給の割合が大きいほど賃金は安定し、歩合給の割合が大きくなるほど賃金額は変動が大きくなります。

歩合給は固定給より残業代がつきにくい

固定給でも歩合給でも残業は法律上存在していますが、歩合給の場合には、歩合であることによって残業代が出にくくなっている実態があります。本来は完全歩合の場合であれば残業代は発生しませんが、その場合には最低賃金すら保証されないこともあるため、もしも最低賃金に満たないなら違法となってしまいます。

歩合給でも残業代が出る場合は、基本給の計算は固定給の部分で定められている基本給になることがほとんどで、ベースの基本給が低いためさほど多くの残業代は期待できません。「固定給」と、「固定給+歩合給」の人が同じように残業をすると、固定給の人の方が一般的には残業代も多くつくことは知っておいた方が良いでしょう。

固定給はあくまで収入のベース額が固定されたものと考えるべき

固定給は、給料が一定額に固定されているものと考えられていますが、労働法上は、あくまで労働による収入のベースになる額が固定されたものと考えるべきです。そのため、残業代や休日出勤などではちゃんと割増賃金がありますし、昇進や定期的な昇給も行われるべきものです。

固定給は単純化された給与制度ではありますが、その中身についてきちんとわかっていなければ悪用されてしまいやすい制度とも言えるでしょう。固定給について正しい理解のもとで、自分の給与が適切に支給されているか常に確認することが望ましいです。