派遣社員の厚生年金の加入条件は?入れないこともある?

派遣社員の中でも厚生年金の加入を希望する人が多いですが、加入に関しては事業所任せになっている人も多いです。しかし、自身の待遇や将来に関する問題でもありますので、基本的な知識はつけておくことが重要です。派遣社員として働くなら知っておきたい年金制度についてまとめました。

派遣社員の厚生年金の加入条件は?入れないこともある?

派遣社員の待遇で気になる厚生年金

派遣社員は非正規社員としてひとつの働き方ですが、不本意な形で派遣労働に従事している人にとって厚生年金などの将来に関する事項はとても重要な問題です。

企業としては派遣社員の採用は人件費のコントロールに有効なのですが、労働者側としてはしっかりした待遇や将来への安心が欲しいものです。

事業者が意図的に、もしくは知らずに厚生年金への加入を行ってくれていない場合もあります。派遣社員が厚生年金について基本的な知識を身に着けておくことは、自身の労働者としての待遇を守ることにもつながります。

厚生年金制度は社会を支える仕組み

支え合い繋がっている社会

厚生年金制度は、社会で各個人に生じ得るリスクに備えるための仕組みです。

自分や家族に加齢、障害、死亡といった様々な要因があれば、自立した生活が難しくなります。そのリスクへの備えを社会で分担するための制度が公的年金です。事前に保険料を納めることによって、必要な状況が発生した場合に給付を受けることが可能になっており、社会保険とも言われます。

厚生年金と呼ばれるものは事業所単位で適用される公的年金で、法人事業所がその適用範囲になります。また、従業員5人以上の事業所においても、業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。

その他にも、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることができれば、法人や人数・業種などの条件を満たさない事業所だとしても適用事業所となることができます。

派遣社員は厚生年金に加入できます

派遣社員が厚生年金に入れるかどうかは、事業所の方針にもよりますが、基本的には加入するべきです。派遣社員の場合、所属する事業所は派遣会社になりますが、ほとんどの場合は加入が必要になります。

ただし、厚生年金が適用される被保険者の条件は、「常用的な使用関係にある」ということが条件になっています。この常用的な使用関係として認められるのは、1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合となります。

また、それ以下の労働時間だとしても、「週の所定労働時間が20時間以上」かつ「雇用期間が1年以上見込まれる」かつ「給与が月額8.8万円以上」かつ「学生でない」かつ「常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めている」といった条件がある場合には厚生年金の被保険者とすることが定められています(注1)。

派遣社員が厚生年金に加入できない場合もある

派遣社員が厚生年金に加入できないケースもあります。こちらは一定の条件を満たせば被保険者となる可能性があります。

1 日雇いの場合

工事現場で働く日雇い労働者

日雇いの場合には常時雇用者と同等、もしくはそれ以上の労働時間だったとしても、厚生年金に加入することはできません。ただし、1ヶ月以上にわたって使用が続く場合には、1か月を過ぎた日から被保険者となることができます。

2 2ヶ月以内の短期雇用の場合

2ヶ月以内の短期雇用契約となっている場合も厚生年金への加入はできません。しかし、所定の期間を過ぎて使用される場合には、その時から被保険者となります。

3 所在地が一定しない事業所で働く場合

巡回興行のように、事業所の所在地が一定でない場合、いかなる場合も厚生年金への加入はできません。

4 4か月以内の季節的業務に就く場合

4ヶ月以内の季節的業務において使用される場合は、厚生年金に加入できません。ただし、当初から4ヶ月を超える予定の場合には、最初から厚生年金の被保険者となります。

5 臨時的事業の事業所に使用される人

半年以内の臨時的事業の事業所に使用される人も厚生年金の被保険者にはなれません。6ヶ月以上が予定されて使用される場合には、働き始める段階で被保険者となることができます。

派遣社員の厚生年金はいくら払えばいいの?

パソコンの前に座って電話をし仕事をしてる女性

保険料は毎月支払われる賃金(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけ、事業主と被保険者がその負担を折半して支払います(注2)。保険料率は年金制度の改正によって引き上げられていましたが、平成29年9月に引上げが終了し、現在は18.3%で固定となっています。

標準報酬月額の保険料率に18.3%をかけたものを事業主と半分ずつ負担となりますので、労働者が納める保険料率は標準報酬月額の9.15%と計算できます。

標準報酬月額とは

標準報酬月額とは、基本給に残業手当や通勤手当、現物給与などを含めた税引き前の給与を一定の幅で区分したものです。厚生年金額や保険料の計算には、標準報酬月額を用いて行います。

標準報酬月額は現在31等級に区分されており、毎年4月~6月に標準報酬月額の改定が行われるため、給与の9.15%よりも多少高くなる人や低くなる人が出てきます。

厚生年金の種類はさまざま

厚生年金は老後の備えというイメージを持っている人も多いですが、老齢厚生年金とはまた別に、病気やケガによって生じた障害に対する障害厚生年金や被保険者の死亡時に家族に支払われる遺族厚生年金など様々なものがあります。

老齢厚生年金

老齢基礎年金(国民年金または厚生年金または共済年金)の被保険者期間が10年以上あり、厚生年金の被保険者期間が1年以上ある場合に、65歳から(特別支給の対象者は60歳から)支給されます(注3)。

障害厚生年金

病院で医師からの診察を受けてる女性

障害厚生年金は、厚生年金保険に加入している間に、病気やケガについて医師や歯科医師の診療を始めて受けた日があり、その病気やケガに由来する障害が残り、年金保険料の納付要件を満たしている場合に受けることができます。

年金保険料の納付要件は、初診日の前日までに「初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されている」「初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない」といったものです(注4)。

遺族厚生年金

遺族厚生年金は、被保険者が死亡した際に遺族に支給されるものです。

被保険者が死亡した場合や被保険者期間中に生じた傷病が原因となり、初診の日から5年以内に死亡した場合に支給されます。被保険者の保険料納付期間が免除を含め、国民年金加入期間の3分の2以上あることが条件となります。

ただし、平成38年4月1日前の場合、死亡日の時点で65歳未満であれば、死亡日の属する月の前々月までの1年間で、納付義務のある期間に保険料の滞納がない方は例外として受給可能です。もしくは、1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる方が死亡したとき、老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある方が亡くなった場合にも支給が行われます。(注5)

その他の支給金

厚生年金では付加年金を納付することによって支給額を大きくしたり、第1号被保険者として保険料を10年以上納めた夫が亡くなった際、妻が60~65歳の期間に支給される寡婦(かふ)年金、死亡時一時金、その他様々な形で起こりうるリスクに対して備えることができるようになっています。

派遣社員かどうかにかかわらず厚生年金と国民年金は違う

厚生年金と国民年金は似ていますが、全く別の制度です。厚生年金と国民年金の違いを確認しましょう。

厚生年金は保険料が事業主と折半

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厚生年金の保険料は事業主と折半することになっています。国民年金は全額を個人が負担することになります。

また、国民年金は引き上げられているとは言え、2017年度時点で月額16,490円と一定額から大きく変わらないのに対し、厚生年金は標準報酬月額によって最大56,730円までの個人負担となります。事業所と折半であり、将来もらえる年金額も大きくなりますが、月々支払う年金額も大きくなる傾向にあります。

厚生年金の特別支給なら支給年齢は60歳から

厚生年金では、特別支給の対象(男性は昭和36年4月1日生まれ以前、女性は昭和41年4月1日生まれ以前)の方は60歳から支給を受けることができます。国民年金の支給額は現在一律で65歳からであり、違いがあることに注意してください。

混同して、特別支給が行える期間であるにもかかわらず、国民年金の支給に合わせて請求すると、特別支給の期間の分の年金支給が受けられなくなる場合があります。

派遣社員も厚生年金制度をしっかり理解しよう

厚生年金に関するルールは年齢や性別・状況によりそれぞれ異なります。全国民の状況に対応するため、かなり複雑になってしまっています。

派遣社員として働く人の中には、厚生年金に加入したいと思っていても、「まずは就職することが第一であって、事業所の方針に従うしかない」と考えている人も多いです。しかし、正しく制度を理解しておけば、厚生年金に加入できる可能性のある事業所とそうでない事業所が区別できるようになります。将来のリスクを軽減するためにも、ぜひ厚生年金制度もよく確認しておきましょう。