派遣社員の待遇で気になる厚生年金
派遣社員として働く際、厚生年金への加入可否は将来の生活設計に直結する重要な問題です。「派遣社員は厚生年金に入れない」と思い込んでいる人もいますが、それは誤解です。条件を満たせば、雇用形態に関係なく厚生年金への加入が義務付けられます。
一方で、派遣会社が意図的に加入手続きをしていない、または労働者側が制度を知らないまま未加入になっているケースも現実には存在します。派遣社員が厚生年金の基礎知識を持っておくことは、自分の権利を守ることにつながります。
以下では、厚生年金の仕組みから加入条件・保険料の計算方法・給付の種類・国民年金との違いまでを整理します。
厚生年金制度は社会を支える仕組み

厚生年金制度は、老齢・障害・死亡といった様々なリスクに対して社会全体で備えるための公的年金制度です。事前に保険料を積み立てることで、該当する状況になったときに給付を受けることができる「社会保険」の仕組みのひとつです。
厚生年金は事業所単位で適用される公的年金で、次のような事業所が加入義務を持つ「強制適用事業所」となります。
- 株式会社・有限会社・医療法人などすべての法人事業所(事業主のみの場合も含む)
- 従業員が常時5人以上いる個人事業所(農林漁業・飲食業・理容業などの一部業種を除く)
上記に該当しない事業所でも、従業員の過半数が同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受ければ任意で適用事業所になることができます。ほぼすべての派遣会社は法人であるため、強制適用事業所となります。
派遣社員は厚生年金に加入できます
派遣社員の雇用主は派遣先企業ではなく派遣会社です。そのため、厚生年金への加入手続きも派遣会社が行います。条件を満たしている場合は、派遣社員であっても厚生年金への加入が法律で義務付けられており、本人の意思で拒否することはできません。
厚生年金の被保険者となるための基本条件は次のとおりです。
- 厚生年金適用事業所(派遣会社)に勤務する70歳未満であること
- 1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が常時雇用者(正社員)の4分の3以上であること(例:正社員が週40時間・月20日勤務であれば、週30時間以上・月15日以上が目安)
上記の「4分の3基準」を満たさない場合でも、次の条件をすべて満たす「短時間労働者」は厚生年金への加入が義務付けられます(注1)。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 所定内賃金が月額8.8万円以上(年収106万円以上の目安)であること
- 2ヶ月を超える雇用が見込まれること(契約更新見込みを含む)
- 学生でないこと
- 派遣会社の厚生年金被保険者数が常時51人以上であること(2024年10月から基準が501人以上→51人以上に拡大)
なお、企業規模要件については段階的な拡大が続いており、2027年以降に51人未満の事業所も段階的に対象となる見込みです(年金制度改正法、2025年6月成立)。
派遣社員が厚生年金に加入できない場合もある
次のいずれかに該当する場合は、労働時間・日数が4分の3以上であっても厚生年金の被保険者にはなれません。
1 日雇いの場合

日々雇い入れられる形態(日雇い)の場合は、フルタイムと同等の労働時間であっても厚生年金に加入できません。ただし、1ヶ月を超えて継続して雇用される場合は、その翌日から被保険者となります。
2 2ヶ月以内の短期雇用の場合
2ヶ月以内の雇用契約の場合は厚生年金への加入はできません。ただし、当初の契約を超えて継続雇用された時点から被保険者となります。また、最初から「2ヶ月を超える見込みがある」として契約を結んだ場合は、最初から加入対象となります。
3 所在地が一定しない事業所で働く場合
巡回興行など事業所の所在地が一定でない場合は、いかなる条件でも厚生年金に加入できません。
4 4ヶ月以内の季節的業務に就く場合
4ヶ月以内の季節的業務において雇用される場合は加入できません。ただし、当初から4ヶ月を超えて雇用される予定がある場合は最初から加入対象となります。
5 臨時的事業の事業所に雇用される場合
6ヶ月以内の臨時的事業の事業所に雇用される場合も被保険者になれません。6ヶ月以上の雇用が見込まれる場合は当初から加入対象です。
派遣社員の厚生年金はいくら払えばいいの?

厚生年金の保険料は「標準報酬月額×保険料率18.3%」で計算され、事業主(派遣会社)と被保険者(派遣社員)が折半して負担します(注2)。派遣社員が実際に負担する保険料率は標準報酬月額の9.15%です。
例えば標準報酬月額が25万円の場合、保険料は「25万円×18.3%=45,750円」となり、派遣社員の負担分はその半額の22,875円です。この金額が毎月の給与から天引きされます。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、基本給・残業手当・通勤手当などを含めた税引き前の月給を一定の等級に区分したものです。毎年4〜6月の報酬の平均額をもとに年1回(毎年9月〜)改定されます(定時決定)。この時期に残業が多いと標準報酬月額が上がり、翌年の保険料が増えることがあります。
標準報酬月額は現在32等級に区分されており(2026年4月から35等級への改定が予定されています)、個人の実際の給与水準によって保険料の金額が変わります。
派遣社員が厚生年金に加入するメリットとデメリット
厚生年金への加入は条件を満たせば義務ですが、メリットとデメリットをあらかじめ理解しておくことが将来設計に役立ちます。
メリット
- 将来の年金額が増える:国民年金(基礎年金)だけでなく老齢厚生年金も上乗せ受給できます。厚生労働省の試算では、月収88,000円で40年間加入した場合、老齢厚生年金が月約19,300円増えます。
- 保険料を会社と折半できる:自営業や国民年金第1号被保険者は保険料を全額自己負担しますが、厚生年金は会社が半額を負担します。
- 障害厚生年金・遺族厚生年金が受けられる:加入中に病気や怪我で障害が残った場合や加入中に死亡した場合に、遺族への保障が手厚くなります。
デメリット
- 毎月の手取りが減る:保険料は給与から天引きされるため、加入前後で手取り額が数万円単位で変わることがあります。
- 扶養の範囲内で働きたい場合に影響が出る:2024年10月以降、51人以上の事業所では月収88,000円以上・週20時間以上で加入義務が生じるため、扶養を維持したい場合は労働時間の調整が必要になります。
派遣社員が厚生年金に未加入だった場合の対処法
加入条件を満たしているにもかかわらず、派遣会社が手続きを行っていない場合は、法令違反となります。まず派遣会社の担当者に加入状況を確認してください。それでも解決しない場合は、次の窓口に相談できます。
- 年金事務所(日本年金機構):加入対象にもかかわらず未加入にされている場合、年金事務所に申告することで調査・指導が行われます。
- 労働基準監督署:未払い賃金や不当な雇用条件全般についての相談窓口です。
- 都道府県の労働局・ハローワーク:雇用保険・社会保険に関する相談が可能です。
厚生年金の種類はさまざま
厚生年金は老後の備えというイメージが強いですが、老齢厚生年金のほか、障害厚生年金・遺族厚生年金など、様々な局面で給付を受けることができます。
老齢厚生年金
老齢基礎年金の受給資格期間(保険料の納付期間・免除期間などの合算)が10年以上あり、厚生年金の被保険者期間が1ヶ月以上ある場合に、原則65歳から受給できます(注3)。特別支給の対象となる方(男性は昭和36年4月1日以前生まれ、女性は昭和41年4月1日以前生まれ)は60歳から受給可能です。
障害厚生年金

厚生年金に加入中に、病気やケガで医師の診療を初めて受け(初診日)、その後一定の障害状態になった場合に受給できます。受給には年金保険料の納付要件があり、初診日の前日時点で「初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間のうち、3分の2以上の期間について保険料が納付または免除されていること」などが条件となります(注4)。
遺族厚生年金
被保険者が死亡した場合、または被保険者期間中に初診日がある傷病が原因で初診から5年以内に死亡した場合に、遺族に支給されます。被保険者の保険料納付期間が国民年金加入期間の3分の2以上あることが原則条件です。なお、死亡日の属する月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がない場合の経過措置も設けられています(注5)。
その他の給付
厚生年金では付加年金の納付による年金額の増額、国民年金第1号被保険者として10年以上保険料を納付した夫が亡くなった際に妻が60〜65歳の期間受給できる寡婦年金、一時金として受け取れる死亡一時金などの制度もあります。
派遣社員も厚生年金制度をしっかり理解しよう
派遣社員かどうかにかかわらず厚生年金と国民年金は違う
厚生年金と国民年金は別々の制度です。日本の公的年金は「2階建て」構造になっており、国民年金(基礎年金)を1階、厚生年金を2階と表現します。会社員・派遣社員は両方に加入し(第2号被保険者)、自営業や無職の人は国民年金のみ加入します(第1号被保険者)。
厚生年金は保険料が事業主と折半

国民年金は保険料を全額自分で負担しますが、厚生年金は会社(派遣会社)と折半です。国民年金の保険料は定額で、2025年度は月額17,510円(2026年度は17,920円予定、厚生労働省発表)です。一方、厚生年金の個人負担分は標準報酬月額の9.15%で、収入が上がれば保険料も増えますが、将来受け取れる年金額も増えます。
老後に受け取れる年金の比較では、国民年金のみ40年加入した場合の老齢基礎年金(満額)は月約69,308円(2025年度)です。厚生年金にも加入していた場合は老齢厚生年金が上乗せされ、モデル世帯(夫婦2人)での試算では月232,784円(2025年度、厚生労働省発表)となっています。
厚生年金の特別支給なら支給年齢は60歳から
特別支給の対象(男性:昭和36年4月1日以前生まれ、女性:昭和41年4月1日以前生まれ)の方は60歳から厚生年金の特別支給を受けることができます。この特別支給期間に請求を忘れると、その期間分の年金が受け取れなくなるため注意が必要です。
派遣契約終了後に厚生年金加入を継続するには
派遣先での仕事が終わると、厚生年金から外れる可能性があります。しかし、次の場合は切れ目なく加入を継続できます。
- 同一の派遣会社で次の派遣先が決まり、次の契約が始まるまでの空白期間が1ヶ月以内であること
- 空白期間中も派遣会社との雇用関係が継続していること(無期雇用派遣など)
無期雇用派遣の形態であれば、派遣先が変わっても派遣会社との雇用契約が継続するため、厚生年金を安定して維持しやすくなります。派遣での仕事が中断するたびに国民年金に切り替える手続きは手間がかかるため、継続的に働く意向がある場合は、次の仕事を早めに確保することが重要です。
参考文献


















