「お金の若者離れ」が全国紙に投書された話題には論点が多くある

「お金の若者離れ」という全国紙への投書が世間で大きな話題となりました。社会構造の変化や若者たちのライフスタイルの変化など、様々な議論が可能なテーマですが、就活の時事問題で問われても自分の答えができるように準備しておきましょう。

「お金の若者離れ」が全国紙に投書された話題には論点が多くある

「お金の若者離れ」についてあなたはどう考えますか

朝日新聞に「お金の若者離れ」をテーマにした投書が掲載されて話題になったことを知っている方も多いと思います。「若者の○○離れ」と言われたり「最近の若者には夢がない」などと言われたりしますが、結局は今の若者にお金がなく、すべてが高嶺の花に思えることが問題だと社会構造について問う内容が多くの共感や議論を呼びました。

大学生の酒井君も、お金の若者離れに共感する一人。その気持ちを共感しようと、経営コンサルタントをしているK・エーイ氏に話を振りますが…。

「お金の若者離れ」の新聞投書に書いてあるロジックには共感できない

新聞を読む猫

―エーイさん、そういえば「お金の若者離れ」の話は当然知ってますよね。あれ、まさしくそうだと僕は思ったんですが、エーイさんもそう思いませんでしたか?

酒井君はそう思ったんだね。でも残念ながら、私はそうは思わなかったんですよね。

―ええっ!そうなんですか。きっと「そうですよね。今の若い世代は本当に大変ですね」とか言ってくれると思っていたのに!

いや、今の若い世代が大変だなぁとは思ってますよ。でも、この「お金の若者離れ」の新聞投書で言ってることについては、ちょっと違うのかなと個人的に感じたというだけです。

―それはどうしてですか?

だって、「お金の若者離れ」の根拠が国税庁が調査した平均年収と、家賃や水道光熱費、そして奨学金の支払いや将来の貯蓄を考えるとってことでしょう。そして、もはや経済成長期ではないってことですよね。

―はい。まさにそうだと思うんですけど違うんですか。

全然違いますよ。まず、平均年収と言っても昔の20代と今の20代とでは、そもそも働いている人の数も違いますし、勤続年数も違います。昔は中卒高卒で働いている人も多かったので、20代と言っても勤続10年みたいな人もたくさんいます。今は大卒でフリーターを希望する人もいます。単純には比べられません。

―そうかもしれないですけど、今と昔では生活にかかる経費も全然違うじゃないですか。あれにもこれにもお金を払っていたらお金なんてすぐに無くなりますよ。

そこもロジックですね。「思うように使えるお金はほとんど手元に残らない」という可処分所得についての話は、個人差も非常に大きいと思います。「経済が右肩上がりだった」頃の人はお金を使える時間や場所、そして対象が非常に限られていました。祝日も少なく、週休も1日。それでいて多くのお店は夕方には閉まる。同じ生活をしていたら、おそらく手元のお金はそれなりに残ると思います。それに旅行に行くにも車を買うにも今は昔よりもずっと安い選択肢はいくらでもあります。

―でも、可能性の話ばっかりじゃないですか。

はい。いろんな状況の人が考えられますから、たらればの話でしかありません。しかし、この「お金の若者離れ」の新聞投書の内容自体が不満や共感を味方につけるような書き方なんですよね。どこかにお金があって、それが若者に入ってこないことが前提になっている。このロジックがちょっと政治家の煽り演説のようで、私には共感できません。

「お金の若者離れ」は誰が何から離れたのかを問題にしてみよう

コストのカンパス

―エーイさんは新聞投書の内容には基本的に反対意見なんですね。僕は「お金の若者離れ」は賛成なんですけど。

そうですね。私はこの表現もあまり好きではありません。「若者の車離れ」なら、若者が車に関心を示さなくなったと考えることができますが、お金が若者に関心を示さないということはありません。そもそもお金は誰にも関心がなく、また考えすら持っていません。

―エーイさん、当たり前のこと言ってませんか?

いや、これは大事なことですよ。「お金が若者を避けている」かのように言うことで、若者たちが大変だという気持ちを醸し出してるわけですから。

―でも、若者たちはお金ないですよ。実際。

酒井君、お金ってどうやったらもらえますか?

―え?そんなの、当然働いたらもらえるんじゃないですか。

そうですね。では、どういうところで働いたらたくさんもらえますか?

―そりゃあ、大企業じゃないですか。それか、初任給の高いところとか。

そうですよね。つまり、お金のあるところで、自分にお金を出してくれるところで働くとお金がもらえるんです。

―ますます当たり前のことを言われている気がしてきました。エーイさんは、いったい何が言いたいんですか?

まあまあ。焦らないでください。つまり、私が言いたいのは、若者たちは「お金があるところ、自分にお金を出してくれる所を本当に知っているのか」ということなんです。そして、そんなところがあったら本当に行くのかということです。

―そりゃあ、行くんじゃないですか?そんないい所があれば。

海外でも?

―そりゃ、語学ができれば。

ほら、このように条件をつけて選択するでしょう。これが「若者のお金離れ」じゃないかと私は思うんです。お金が若者から離れているんじゃなくて、若者がお金のある所から離れていくんです。

―そんなこと言われても、できないことはできないじゃないですか。

じゃあ、できるようになったらいい。そのための教育であり学習です。特に現代はかなりの専門性が必要な仕事が多くなっていて、そのための学習コストが高いため、若者たちが避けているようにも見えます。

―だって、コストが高いから、コストパフォーマンスの良いものを選ぶしかないと思うんですが。

コストというのはお金だけでなく、投資する時間なども含まれますけどね。まあ、定義はともあれ、昔と今で最も変わったのは「コストで考える」意識が強いことじゃないでしょうか。情報量が増えたことによって、何となく先行きが見えることも多く、辛いことや大変なことを敬遠する傾向があると思います。これが「若者のお金離れ」の本質だと私は思っています。

若者は「お金の若者離れ」の原因よりも世代間格差に怒っている

上司と部下

―エーイさんがそうおっしゃるのはわからなくもないですが、僕は「お金の若者離れ」の原因が何かということよりも、この社会構造に対して若者たちが感じている不満や怒りに共感しています。この点はどう思いますか?

つまりは世代間格差ですね。これは無いとは言えませんよね。実際、様々な環境や制度が変わっていますし、私くらいでもその上と比べたら違うと感じますから。

―そうでしょう?だから、この「お金の若者離れ」の新聞投書は世代間格差を何とかしてほしいっていう叫びでもあり、「若者の○○離れ」とか「夢が無い」とか非難しないでほしいってことだと思います。

世代間格差の問題は難しいですね。ただ、これも誤解をしないでほしいのですが、世代間格差はいろんな世代においてあります。今の若者が最も立場が悪いかはわかりません。そして、今の高齢者と言われている人たちは、大きな経済格差があるため、みんながみんなお金持ちでもないし、いい時代を生きたということでもないことは理解する必要があります。

―まあ、高齢者の貧困の話なんかも多いですし、話を聞くとかわいそうになりますよね。

はい、実際大変な問題のひとつだと思います。とは言え、若者たちにとってはすでに出来上がった社会構造の中で、どうにもできない閉塞感があるのは確かでしょうから、これを突破する方法を考えないといけないのはきついところですね。

―はい。もしかしたら自分たちがある程度の年齢になるころには違う考えになるかもしれませんが、最初から難易度の高い課題を与えられてるような気分です。解けないとは言わなくとも、やる気がなかなか出ないのはわかってほしいです。

若者はお金でモノを手にすることよりも夢のような体験をすることを大切にしている

小さい船と窓

そういえば、今の若者は昔の若者と比べて消費行動が違うっていう話もありましたね。

―消費行動が違う?どういうことですか?

昔は、物がそれほどなかったということもあったので、何かを持つことが重視されていました。その例が車やブランド品などです。

―そういうものは今でも欲しい人は多いと思いますけどね。

でも、今はそういうものはディスカウントショップやネットオークションなんかで安く手に入れようとするでしょう。昔はそういうものもなかったので、なかなか手に入れにくかったのですが、今の若者はそこでお金をあまり使ってはいないんです。

―じゃあ、どうしてお金がないと感じるんでしょうか。

今の若者は、どちらかというと時間や快適さにお金をかけて消費行動をしていると言います。たとえば、テレビは要らないけど友達とやり取りするためのスマホは絶対必要とか、イベントやコンサートのための費用だとか、そういうところにお金を使う傾向があると言います。

―確かに、そういう部分はあるかもしれませんね。モノよりも体験を重視するべき、みたいな雰囲気はありますし。また、SNSでもモノ自慢は嫌がられますけど、体験の報告なんかは割と羨ましがられている気がしますし、共有できる仲間の間では盛り上がります。

昔のように、モノを持つことがステータスや成功を表すものではなくなっていることも、消費行動の変化かもしれませんね。そういう部分では、年配者たちも認識を改める必要がありますね。今の若者たちは、何かになる、何かを持つのが夢なのではなく、実際に夢のような体験をすることが大切だと考えているのかもしれません。

「お金の若者離れ」から日本経済をどう考えるかが大事な視点

日本経済を運ぶ働く人

―エーイさん、この「お金の若者離れ」では、「日本経済が右肩上がり」だった頃の感覚と今の感覚は違うということも言っていますが、実際、日本経済をどう考えるかって大事な問題ですよね。

そうですね。まあ、ぶっちゃけ既に右肩上がりは終わっていますし、多くの人はそれを認識しています。困るのは、その右肩上がりが終わった理由は決して「若者が頑張っていないから」ではないってことですよね。

―そうですよね。なのに若者が頑張ってないとか、夢がないとか野心がないとか言われるんですよね。

まあ、若者に物足りなさを年配者が感じることは常ですからね。とはいえ、経済成長ということを考えると不安はありますよね。やはり人口構造の変化や社会システムが時代に合わなくなってきたことなどが特に問題です。

―年金の納付額も上がっているし、将来はそれでも支給額は少なくなるだろうと聞きました。不公平だと感じます。

これに関しては不公平だというのは仕方ないですね。まあ、納めた金額以上に返ってくる見込みが大きいので損をするわけではないのですが、感情的には当然だと思います。

―日本経済はもう、昔みたいな成長はしないんでしょうか?

それはわかりません。何が成長のキッカケになるかも予測不可能です。ただ、将来へのリスクを少しでも小さくするという意味では、今行われている「働き方改革」などは大事だと思います。

―働き方改革は、過労死を減らしたりテレワークを可能にするとかそういうものですよね。

それは働き方改革の一部ですね。詰まるところは、終身雇用・年功序列・企業内組合という日本型の雇用システムが時代に合わなくなってきていることや、労働力人口の不足をカバーし、より成長力のある状況を作るために多少の痛みは覚悟で変化させていこうということです。

―それでお金の若者離れは解消されるんですか?

お金の若者離れが解消されるとは言い切れませんが、多少賃金は上がると思いますし、不公平も是正されるんじゃないでしょうか。まだまだ日本には多くの技術資源や教育水準の高い人材が多くいます。ちょっとたとえが良くないですが、上手くここで過去の栄光を捨てて撤退戦を成功させて、状況が整えばまた経済成長が期待できるのではないかと思います。

「お金の若者離れ」は世代間の違いを考える問題でもある

共に働く社員

―今日は何かエーイさんと「お金の若者離れ」について話していて、世代の違いというか考えの違いというかを感じました。

そうですね。実は私も酒井君と話していて、それを感じました。

―すると、この「お金の若者離れ」問題って世代間で考えが大きく分かれる問題なのかもしれませんね。正解がないタイプの問題なのかな。

そうですね、少なくとも今思っていること、感じていることが正しいかは、何十年も過ぎてみないとわからないと思います。まあ、上の世代が下の世代に対して謝罪するようなことは結果によらず無いのかもしれませんが。

―でも、他の世代の人がどう考えているかって、なかなかわからないものなんですね。

そうですよね。昔と比較すると、近所の人や親戚はおろか、親とすらコミュニケーションをしたり議論することは少なくなりました。会社の同僚や上司とも関係は希薄化していっています。他の世代の声や意見を聞く機会が少ないことが関係しているかもしれませんね。

―テレビやネットなどの情報も、やっぱり自分と近い年代の意見はわかりやすいので、知らず知らずに情報を選別しているかもしれません。そう考えるとやっぱり新聞みたいに幅広く意見を拾えるメディアをもっと使った方がいいんでしょうかね。

まあ、ひとつの有効な手段だとは思いますが、新聞もターゲットにしている層がある程度決まっていますから、完全に公平ではありません。やっぱり、もっと世代間のコミュニケーションを積極的に取っていく必要があるのかもしれません。

―「お金の若者離れ」は、世代間のギャップみたいなものを浮き彫りにするいい材料になったと思います。自分の考えもありますが、いろんな人からいろんなお話を聞いてみたいです。エーイさん、今日はありがとうございました。

「お金の若者離れ」から得た教訓を生活やキャリアに活かそう

「お金の若者離れ」は新聞の投書から始まって、インターネット上で拡散し、テレビなどのマスメディアもこぞって話題を取り扱うようになりました。その中で、年代の違う様々な人が様々な意見を主張しており、どれも正しいように聞こえます。どれが正解ということはないとしても、指摘されている様々な問題や意見を上手く消化し、自分の教訓として生活やキャリアに活かしていきたいものです。就活の時事問題でも出そうなテーマですので、自分の意見を整理しておきましょう。