民泊のあり方について、あなたはどう思いますか
インバウンド需要が急拡大する中、民泊は再び注目を集めています。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2024年の訪日外国人数は約3,687万人と過去最高を更新し、旅行消費額も8兆円を超えました。宿泊需要は旺盛である一方、大都市を中心にホテルの供給が逼迫し、民泊への期待が高まっています。
民泊と言えば、2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)が今も賛否の的です。旅行業・不動産業・観光業を中心に、就活の面接やグループワークでも取り上げられるテーマであり、シェアリングエコノミーやダイバーシティとも深く関わります。
大学生の酒井君は、経営コンサルタントのK・エーイ氏に民泊の問題とこれからについて話を聞いてみることにしました。
そもそも民泊ってどういうものを言うの?

―エーイさん、今日は民泊について教えてください。
いいですよ。旅行業・不動産業・ホテル業などを志望する就活生はもちろん、シェアリングエコノミーやダイバーシティを語る場面でも絡んでくるテーマですから、整理しておく価値は十分あります。
―酒井さんは、民泊ってどういうものだと思っていますか?
―えーと、「自分の家の空き部屋に宿泊料をもらって他人を泊めるもの」でしょうか。
イメージとしては合っています。民泊は、自宅などの住宅の一室あるいは一棟を、宿泊料を受け取って外部の宿泊者に提供する行為です。ポイントは「営業」であること。一回限りの知り合いへの貸し出しは含まれません。
―友達が就活で泊まりに来て、宿泊料をもらったら民泊になるんですか?
なりません。民泊などの宿泊業と見なされるのは、反復的に宿泊が行われているか、民泊情報サイトに物件を掲載するなど継続的な集客活動をしているケースです。こういう形を「営業」と呼び、それが前提になります。
日本における民泊の3つの法的枠組み
①住宅宿泊事業法(民泊新法):2018年施行。都道府県への届出で始められるが、年間営業日数の上限は180日。
②旅館業法(簡易宿所):許可制で営業日数の制限なし。消防設備など設備要件は厳しく、開業コストが上がる。
③国家戦略特区法(特区民泊):指定地域(大阪市など)のみ適用。最低2泊3日以上などの条件がある一方、一部の日数制限が緩和される。
日本の民泊に大きな衝撃を与えた民泊新法は悪法なのか

―民泊新法について教えてください。良くないという話もたくさん耳にします。
民泊新法は表向き「民泊を始めやすいように制度を整えた」という位置づけですが、実態としては法制化によって民泊のうまみを消し、ヤミ業者を追い出したり摘発するための法律になってしまっているという見方が根強くあります。
―施行後の現状はどうなっているんでしょう?
観光庁の「住宅宿泊事業の届出状況」によると、2026年1月時点の累計届出件数は約5万9千件に達しました。コロナ禍を経て訪日需要が急回復した2024年には特に新規参入が増え、稼働物件数も過去最多水準となっています。ただし累計の廃業率は3割を超えており、開業したものの採算が合わずに撤退する事業者も多いのが実態です。
―採算が合わない理由はやはり年間180日の上限ですか?
大きな要因です。ホテルで稼働率50%なら経営は苦しいですが、民泊は上限180日ですから理論上の最大稼働率はそれ以下です。また廃業した事業者の多くは、日数制限のない旅館業(簡易宿所)や特区民泊に転換しているケースも少なくなく、純粋な経営不振による廃業ばかりではないという見方もあります。
―この法律で得をしている人はいるんですか?
既存のホテルや旅館などの宿泊業者は、競合が絞り込まれる分、恩恵を受けやすい立場にあります。海外では民泊とホテルは補完関係にあり、ホテルでは提供できない体験型・生活密着型のサービスで住み分けているのですが、日本では敵視されている印象がある点はいまも変わっていません。
民泊新法の主なルール(2025年時点)
・年間営業日数の上限:180日(自治体の上乗せ条例でさらに短くなるケースあり)
・都道府県知事等への届出が必要
・台所・浴室・便所・洗面設備の設置が必要
・家主不在型の場合は住宅宿泊管理業者への委託が義務(登録管理業者に限る)
・宿泊者名簿の作成、衛生管理、騒音対策などが義務付けられる
・違反した場合、100万円以下の罰金または6か月以下の懲役の罰則あり
民泊の議論の中心はシェアリングエコノミーとダイバーシティ

―民泊をめぐる議論の核心はどこにあるんでしょう?
法制度の妥当性を除いて大きく整理すると、「シェアリングエコノミー」と「ダイバーシティとセキュリティ」の2軸になるでしょう。
―シェアリングエコノミーについてまず教えてください。
空いた物件や部屋をシェアできる状態にするというのが民泊の本質です。日本では人口減少と空き家の増加が同時進行しており、国土交通省の推計では2033年には全国の住宅の約3分の1が空き家になるとも言われています。使われていないストックを有効活用できるなら、社会的にも大きな意義があります。
―それなのになぜ反対されるんでしょう?
一番の理由は、日本社会においてシェアリングという発想がまだ十分に根付いていないことでしょうね。相乗りや相席を極端に嫌う傾向があり、見知らぬ人や外国人と空間を共有することへの抵抗感は他国と比べて強い。その「文化的ハードル」が制度論より先に立ちはだかっているように見えます。
―では「ダイバーシティとセキュリティ」の面はどうでしょう?
ダイバーシティ、つまり様々な背景を持つ人々を社会が受け入れられるかという問題です。民泊には外国人旅行者が多く利用しますが、観光庁のデータによると民泊宿泊者の6割以上を外国人が占めており、まさにダイバーシティが問われる場になっています。
―不特定多数の外国人が近隣に出入りすることへの抵抗感という話ですね。
そうです。住宅街に民泊が開設されると、近隣住民から反対運動が起きることもあります。セキュリティへの懸念を口実にしている場合も多いですが、客観的に見ると外国人だからといってトラブルのリスクが日本人より高いというわけではありません。むしろメディアの報道が恐怖感を増幅させている面があります。
―確かに、なんとなく「外国人は怖い」というイメージを持ってしまっていました。
こうした認知のゆがみが、民泊を必要以上に怖いものにしてしまっている。ただ、根拠のない恐怖ではなく具体的なトラブルも実在しますから、そこは分けて議論する必要があります。
新法前後の民泊が抱える問題

―民泊にはやはり問題も多いですよね?
正規の旅館業に比べると問題が生じやすいのは事実です。宿泊者側のトラブルとして多いのは、深夜の騒音・ゴミの不適切な処理・備品の盗難・建物の共用部の無断使用などです。特に民泊は住宅地域にできやすいため、ホテルが商業地域にある場合と比べてトラブルの影響が直接的に住民に及びます。
―違法民泊はどうなっているんでしょう?
民泊新法施行後も違法営業は続いており、外から判別しにくいのが問題です。近隣からの通報や、民泊サイトへの掲載状況の確認などが主な発覚ルートになっています。法的には届け出なしで営業した場合、旅館業法違反として摘発の対象になり得ます。
―他にどんな問題がありますか?
民泊目的での住宅・マンションの買い占めという問題もあります。本来は地域住民のための居住用物件が宿泊施設に転用されると、地域の人口構成や街の雰囲気が変わってしまう。京都市など観光地での地価上昇や住民の生活環境の変化は、オーバーツーリズムの問題と絡み合いながら深刻さを増しています。
―最近は「オーバーツーリズム」という言葉もよく聞きます。
訪日外国人が増え続ける中で、観光客の集中による地域住民の生活への支障が顕在化しています。観光庁は2023年に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を発表しており、民泊もその文脈で規制が議論されています。訪日需要はプラスでも、受け入れる側のキャパシティと住民の合意なしには持続可能ではないということです。
民泊に関する基本知識を確認してみましょう。就活のグループワークや面接でも問われやすいポイントを4問で出題します。
これから日本の民泊はどうなっていく?

―エーイさんは、これから日本の民泊はどうなると思いますか?
東京オリンピックの前後を一時的なピークとして衰退する、という見立ては完全に外れました。コロナ禍で一度落ち込みましたが、現在のインバウンド急回復を背景に民泊は再成長の局面に入っています。観光庁のデータでは稼働物件数が過去最多水準を記録しており、少なくとも数量的には縮小どころか拡大しています。
―では、今後の課題は何でしょう?
大きくは2つです。ひとつは「量から質への転換」。単純に安いだけの民泊では、価格競争で体力を消耗して廃業に至ります。農業体験・漁業体験など地域ならではの体験型コンテンツと組み合わせた「体験型民泊」や、長期滞在・ワーケーション需要に応える「一棟貸し型」など、ホテルにはできない付加価値を提供できる事業者が伸びていくでしょう。
―もうひとつの課題は?
オーバーツーリズムへの対応です。訪日客が集中する都市部では、民泊の急増が地域住民の生活や住宅価格に影響を与えています。観光収益と住民生活の両立という難問を解決するには、自治体・事業者・住民が丁寧に合意形成を重ねるしかありません。京都市のように独自の厳しい条例で対応している自治体がある一方、地方では空き家活用と観光振興を同時に達成できるとして民泊に前向きな地域もあります。
―Airbnbなど世界的なサービスとの関係はどう見ていますか?
Airbnbに代表されるプラットフォームは、世界中の旅行者にとって民泊の魅力を伝える強力な窓口です。ただ「Airbnbに載せておけば埋まる」という時代はすでに終わっています。プラットフォームへの依存を減らしつつ、独自の強みを磨いていく運営姿勢が、今後の民泊を生き残りを左右します。
民泊が難しい日本はグローバル社会にどんどん遅れていく

この民泊の問題は、日本のシェアリングエコノミーやダイバーシティへの対応の遅れを映し出しているに過ぎません。訪日外国人が年間3,700万人近くを超えた現在もなお、外国人に対して必要以上の警戒感を持つ人は少なくない。そういった心理的ハードルが、制度的な問題と相互に絡み合って民泊の発展を阻んでいます。
―外国人と接することへの抵抗感は、どこから来るんでしょうか?
自分たちにとって異質なものを受け入れることへの本能的な抵抗です。ただ、これは日本人特有の問題でもなく、島国という地理的条件やこれまでの歴史が積み重なったものです。大切なのは「現在の状態がグローバル標準と比べてどこにあるか」を冷静に認識し、意識的に接触機会を増やしていくことではないでしょうか。
―民泊はその良い機会になれると思います。
そうですね。外国人旅行者と地域住民が日常的に接点を持てる数少ない機会のひとつです。ホームステイや農家民泊などの形で、対話のある民泊が根付くことができれば、単なる宿泊業を超えた文化交流の場になり得ます。問題ばかりが取り上げられますが、そういった可能性も民泊には確かにあります。エーイさん、今日はありがとうございました。
民泊がきっかけで日本人の国際化度合いが露呈した
民泊の問題は、法律・ビジネス・まちづくり・国際化という複数の観点から語ることができます。そしてその背景には、シェアリングエコノミーへの馴染みのなさや、ダイバーシティへの対応という日本社会全体の課題が見えています。
就活でこのテーマが問われる場合、単に「民泊新法は厳しすぎる」「外国人が増えて困る」といった感情論ではなく、インバウンド需要・地域経済・住民生活・法制度のバランスをどう取るかという多角的な視点で論じることが求められます。自分の考えを持つ前に、まず現状のデータと各ステークホルダーの立場を整理しておきましょう。


















