「着る」の敬語表現の正しい使い方とシーン別使える例文

「着る」の敬語は日本語学習者はもちろん、日本人でも間違いの多いものです。そのため変化や慣用句、同音異義語などに注意が必要です。アパレルなどでは頻出の必須語ですので、正しい敬語表現や、誤用例についても理解しておきましょう。

「着る」の敬語表現の正しい使い方とシーン別使える例文

「着る」の敬語表現を使いこなそう

アパレルショップや接客業においては、「着る」という単語を敬語として使うことが非常に多くなります。しかし、「着られますか?」というような敬語表現は丁寧ではありますが、時には「サイズが大丈夫ですか?」のような印象になり誤解を与えかねません。

実は「着る」は敬語の中でも難しい表現のひとつで、間違いも頻発する注意が必要な言葉です。正しい使い方を身に着けて、接客などの際に活かすようにしましょう。

「着る」の敬語が難しい理由

パソコンで「切る」ではなく「着る」を入力する女性

「着る」の敬語表現が難しい理由は、まず音の似た言葉が多いことで、そのために変化の仕方が混乱するためです。

たとえば、「着る」には「切る」という同音異義語があります。「きない」「きらない」をどちらに用いるのか、日本人ならすぐにわかりますが外国人にはわかりにくいものです。
「きられる」がどういう意味かとなると、「着る」なら敬語表現もしくは可能表現ですが、「切る」なら受身表現となります。

そして、「着る」だけではなく、帽子は「かぶる」、靴は「履く」、コートは「はおる」こともありますし、下着は「着ける」と言ったりすることもあります。対象となる衣類によって「着る」が使えたり使えなかったりすることも難しく感じる理由のひとつです。

また、着るには「恩に着る」「笠に着る」などの慣用句もあり、それがまた判断を難しくしている面もあります。ひとつひとつ、その意味や用法を考えて、正しく言葉を変換させる必要があるため難しく感じるのです。

基本的な「着る」の敬語表現

「着る」の敬語を解説

「着る」についての基本的な敬語表現は、やはり尊敬語・謙譲語・丁寧語をしっかり用いることが必要となります。その表現については以下の通りです。

尊敬語

「着る」の尊敬語:「召す」「着られる」
文例:「こちらのお洋服をお召しになられますか?」「部長はタキシードを着られますか?」

謙譲語

「着る」の謙譲語:「着させていただく」
文例:「講師の先生にお借りした衣装を着させていただく」

丁寧語

「着る」の丁寧語:「着ます」
文例:「買ってもらった新しいシャツを着ます」

「着る」の敬語表現で気を付けたいポイント

接客中のブティックの店員

基本的には「召す」「着られる」「着させていただく」「着ます」の4つの表現を覚えて使えば良いのですが、いくつか注意点があります。

尊敬語では「召す」という単語が用いられるので、「着る」からは変化して使うことができません。「召す」は様々な意味を持つ言葉でもあり、正しい用法で使うことが求められますが、「着られる」に比べて場面における誤解されるリスクがないため、しっかりと覚えておきたい表現です。

また、「着られる」は助動詞「られる」によって敬意を表現していますが、これは受身や可能などにも意味を取ることができます。時には「着られますか?」が失礼に聞こえることもありますので注意しましょう。「着れますか?」が可能を問う場合には正しいのですが、印象として混ざることがあり、接客の際には失礼に聞こえるリスクを避けるため「召す」を使うのが基本です。

「着る」のその他の敬語表現

「着る」のその他の敬語として、「ご着用になる」という表現があります。

「ご着用になる」の尊敬語

  • 「首相がマリオの衣装をご着用になる」
  • 「会場のお客様にはこちらの3Dメガネをご着用いただきます」

「ご着用になる」の謙譲語

  • 「スポンサーの配慮で新しいスパイクを着用させていただいた」
  • 「工事現場の視察のためにヘルメットを着用させていただき、トンネルをくぐった」

「ご着用になる」の丁寧語

  • 「就職活動のマナーとしては、基本的に男女ともスーツを着用します」
  • 「食器洗いの際にはゴムの手袋を着用します」

「着用」は「着る」という意味だけでなく、メガネなどをかける、帽子やヘルメットをかぶる、靴下や靴を履くなど、「身に着ける」ことに関して様々な表現の代わりに利用することができる便利な言葉です。

また、「試着する」も「ご試着される」「試着させていただく」「試着します」と、「着用する」と同様に幅広く使うことが可能です。「試着」には「試しに着る」という意味がありますが、メガネや帽子、靴など幅広い対象に活用できます。

「着る」を用いた慣用句と敬語表現

「着る」が難しいのは、慣用句や慣用表現などでも出てくることがあるからです。
いくつかの事例を見てみます。

恩に着る

お辞儀をする女性会社員

「恩に着る」は「受けた恩をありがたく思う」という意味です。これを敬語表現にすると「恩に着ます」となります。

「恩に着ます」という表現ばかりを聞いていて、元の形を知らないと「恩に来ます」と間違えがちですので注意しましょう。また、「恩に着ります」という誤用も見られます。

また、「恩に着られる」という言い方もできますが、「恩に着ていらっしゃる」という表現の方が自然なことが多いです。「恩に着る」は動詞ですが状態を示す言葉に近いため、「恩に着させていただきます」「恩に着られる」よりも「恩に着ております」「恩に着ていらっしゃる」というような表現が適切となります。

笠に着る

「笠に着る」は「他人の権威などを頼りに威張り散らす」という意味の言葉です。基本的にネガティブなイメージで使う言葉ですので、敬語で表現することはありません。

「大臣の支援を笠に着ていらっしゃる」というような使い方は文法的には正しいのですが、実際の使い方として不適切です。この場合は「大臣の支援を笠に着ている」と平文で表現します。

歯に衣(きぬ)を着せない

「歯に衣を着せない」は「(指摘などが)遠慮がない、手厳しい」という意味です。この場合は慣用表現となりますので、「歯に衣をお召しにならない」などと無理に敬語に変換する必要はありません。

もしも厳しい指摘を得意にしている人に対して敬意を払う際には、このように、慣用句はそのままで他の動詞部分を尊敬表現にして使いましょう。

「着る」の敬語である「召す」の意味は「着る」だけじゃない

「召す」は「着る」の尊敬語表現にあたります。より丁寧な言い方をしたい場合には「お召しになられる」などの二重敬語を使います。「着る」の意で使いたい場合には、できるだけ「こちらのお洋服を召されますか?」というように「着る」を喚起させるよう、衣類を文の中に盛り込んで使うのが良いでしょう。

「召す」の意味いろいろ

「召す」は、「召しあがる」になると「食べる」の尊敬語表現になります。

そして、「お年を召す」という言い方をすると「年をとった」という意味になります。「お年を召された方」という表現では高齢者を表したり、「風邪を召される」という表現で使われることもあります。これらは最近使われることは少なくなっていますが、いずれも状態の推移を表す表現です。

文語や古文の範疇となりますが、「召す」は補助動詞として尊敬の意を高める使い方をすることがあります。「思し召す(おぼしめす)」「知ろし召す(しろしめす)」など、天皇などの尊い立場にある方に特に敬意を示して表現する際に用います。

「召す」そのものはもともと「呼ぶ、招く」という意味も持っていますので、使う場面には注意が必要です。特に、この用法における「召される」という表現は「亡くなる」を意味する場合もあるので気を付けて使いましょう。

「お洋服」「お着物」などの敬語表現は間違い?

着物を着た女性達

アパレルなどの業界で働いている場合には「お洋服」「お着物」などの表現をすることがあります。これらは、本来は尊敬語になるため、文法的にはお客様の衣類に関しては使ったとしても、自店の商品に対して使うべきではありません。

しかし、実際にはこうした表現は容認されており、「お客様の物になる可能性のあるもの」「お客様が興味をもっていらっしゃるもの」として、お客様への敬意を表すとして利用可能です。
その上で、お客様の衣類に敬意を払う場合には「お召し物」という言い方をすると良いでしょう。「こちらのお洋服をご試着されますか?それでは、お召し物はこちらのハンガーにおかけください」といった具合になります。

「着る」の敬語では「召す」を上手に使おう

「着る」の敬語は音の問題や意味の問題、慣用的な使い方などがあるため、日本語を学習する外国人はもちろん、日本人でも間違いが多い難しい表現です。

できるだけ「召す」を正しく使い、誤解を招きやすい「着られる」などの表現は避けた方が無難です。「着用する」「試着する」なども上手く用いると良いでしょう。

「着る」の敬語表現は例外的な事例を除けば、ほぼ「召す」が使えます。例外をしっかり覚えておいて、普段から「召す」を使うように練習しておくと間違いが少なくなるでしょう。

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