ダブルバインドとは?上司の矛盾した指示に影響されないには?

ダブルバインドという概念が職場のトラブルで注目されるようになっています。職場のダブルバインドが労働者の精神状態を悪くしたり、人間関係の悪化の原因になることがあります。ダブルバインドの定義や見分け方、予防法などについて考えてみましょう。

ダブルバインドとは?上司の矛盾した指示に影響されないには?

職場でたびたび発生するダブルバインドに気をつけよう

社会人となり、職場で仕事をするようになると様々な矛盾した指示を受けていると感じることはないでしょうか。こうした中には、ダブルバインドと言われ、かつては心の病の原因とされていたような内容も含まれています。今でもダブルバインドは認知の歪みや子供の発育などに悪影響を与えると言われているように、精神衛生上よくないものであることは間違いありません。

アルバイト先でダブルバインドを経験した大学生の酒井君は、経営コンサルタントのK・エーイ氏に助言を求めます。ダブルバインドをしない、影響を受けないために必要なことを一緒に考えてみましょう。

ダブルバインドって何?

ダブルバインドのイラスト

―エーイさん、聞いてくださいよ。バイト先の店長がひどいんですよ。

ほう、どうしたんですか?

―バイト先で、いつもは「何でも相談しろ」って言っているのに、いざ相談したら、「まだそんなこともわからないのか!自分で考えて判断しろ!」って怒られたんです。ひどくないですか?

ははあ、ありがちなダブルバインドのパターンですね。

―何ですか?ダブルバインドって?

「ダブルバインド」というのは、元々心理学や精神医学の用語で、日本語で言えば二重拘束という意味になります。つまり、2つの矛盾した命令のことを言うんですね。

―そうなんですか。そう、まさに僕はダブルバインドの犠牲になったんですよ!

またまた、ちょっと大げさですよ。まあ、バイト先でなく職場に行けばこういった矛盾した命令があることは多々見られますし、そういったものを最近はダブルバインドと呼ぶことが増えてきました。でも、発案者の文化人類学者ベイトソンは、こうした指示が繰り返し、習慣的に行われることを問題として名付けていたんです。

―職場の矛盾した命令って別に単発でも繰り返しでも、言われた側が困るっていうのは変わらないと思いますけど。何か違うんですか?

はい、全然違うんです。習慣的に繰り返されることの何が問題かというと、その結果、心の病を発生する確率が高くなるということが提唱されたからです。

―ええっ!そんな大きな問題なんですか?

そうなんです。最近は職場におけるストレスからの心の病が労働問題になっていますが、その中で再びこうしたダブルバインドが注目を集めるようになっています。上司や部下、先輩や後輩という上下関係の中で発生するダブルバインドは、親子の間で発生するダブルバインドのように人格形成や精神衛生の上で問題になりやすいと見られているんですね。

ダブルバインドの典型的な形とは?

叱られる女の子

―じゃあ、僕のバイト先で起こったことは良くないことではありますけど、本当の意味でのダブルバインドではないということなんですね。

まあ、現段階だとそうだと思います。少なくとも、これが繰り返されなければ大丈夫だと思います。酒井君にも特に変調は見られませんから。

―でも、誰だってこういう矛盾したメッセージを発してしまうことってあると思うんですけど、どういう状況でそんな重大な問題になってしまうんですか?

では、ダブルバインドをもっと理解するために典型的な例を示してみましょうか。ある親子の会話で、親が「勉強なり遊ぶなり好きにしなさい」と言ったとします。それで子供が自由を得たと思って遊びに出かけました。すると、帰宅した時に親が「何で遊びに行ったの!勉強しないなら家の手伝いしてよ!」と言って子供を叱ってしまいます。これが典型的と言われるパターンです。

―うわ~、完全に矛盾してますね。

はい、そうですよね。こうした仕打ちが日常的になってくると、子供は親の言うことを信じられなくなっていき、その言葉の裏の意味を読み始めるようになるんです。「勉強しなさいという裏には何を考えているんだろう」という感じで、どんなことにも素直に言うことが聞けなくなっていきます。特に、愛情に見える言葉の裏には自分に向けられた敵意があると考えるようになるんです。

―何だか悲しい話ですね。

はい、本当に悲しいことなんですよ。すると、いざ愛情を示して「一緒に寝ましょう。おいで」と言われても「行きたいけど、近づけば害されるかもしれない」と考えるようになり、一定の距離を取ったり、またストレス状態の中で一緒にいたりするんです。でも、愛されたい気持ちもあるから完全に離れることができない。

―ダブルバインドって、かわいそうな状態なんですね。

こういう状態が続くことで心の病に陥ってしまい、心身のバランスが崩れてしまうんですね。実はこうした状態というのは、親子の関係だけでなく夫婦のDVなど様々な場面で見られています。普段は不条理な暴力などで迷惑をかけている夫が妻に突然「愛している」と切々と語りかけるなど様々な矛盾が繰り返されることでダブルバインドになってしまうんですね。

職場のダブルバインドはどんな感じで起こるのか

怒る男性社員

―職場におけるダブルバインドが問題になっているとエーイさんはおっしゃっていましたが、職場でのダブルバインドってどんな感じで生じるんですか?

職場におけるダブルバインドでは、先の酒井君の場合のように上司にあたる人の話していることがコロコロ変わる場合がまずありますよね。これが続くとちょっと危険です。

―そうなんですね。でも、僕も後輩にしていないか心配でもありますね。

はい、ぜひ気をつけておいてください。ダブルバインドは誰でもやってしまいがちですから。そして、もうひとつ注意が必要なのは個人としてではなく組織としてのダブルバインドですね。

―え?どういうことですか?

これは、組織の規範、たとえば社内規則とか社内理念などと実際の行動や指示に矛盾が続くような場合ですね。それで、うまくバランスを取って両立させることができないと叱責を受けたり何かしらのペナルティが発生する場合です。

―「時間厳守」と言っておきながら上司が会議に遅れるようなことですかね?

それはちょっと違いますね。イメージ的には「本音と建前」です。たとえば、「お客様第一」を行動理念にしているのに、「今は品質を下げてでも利益を優先しろ」という指示が出続けるケースなどですね。こういうことが続くと組織の雰囲気も変わり、人によってはダブルバインドに陥ってしまいます。

―何を信じたらいいのかわからなくなっていくんですね。でも、何がダブルバインドになるものとならないものを决めているんでしょうか。多少の矛盾があるのは仕方ないし、みんなうまく受け入れているように思えるんですけど。

ダブルバインドの判断は指示そのものではなく「文脈」に注目するのがコツ

疑問をする人のフィグア

酒井君、良いところに目をつけましたね。実は、ダブルバインドで注目するべきは指示の内容ではなくて、「文脈」なんです。

―文脈ですか?わかるような、わからないような。

例を出しましょう。「働きなさい」と「遊びなさい」と酒井君が言われました。これはダブルバインドになると思いますか?

―いいえ、思いません。

どうしてですか?

―だって、これはそれぞれ独立した指示だと思います。

その通りです。では、「勉強しなさい」と「勉強するか遊ぶかは自分で决めなさい」はどうですか?

―たぶん違うんじゃないですか。何がどう違っているのかよくわかりませんけど。

これは実はダブルバインドになる言い方です。「勉強」と「遊び」はここではダブルバインドと関係はないのですが、「勉強しなさい」「自分で决めなさい」と指示内容に矛盾があるんです。

―なるほど。でも、「勉強しなさい」って言った後に「自分で决めなさい」って言う人ってあまりいないんじゃないですか?

そこが「文脈」なんですよね。人間は他者とコミュニケーションをする中で、その人や組織の発言などを少なからず意識するようになっています。それがここで言う文脈で、特に同じようなテーマの話題にはこの文脈が強く意識されます。メタメッセージと言ったりすることもありますね。いつも「勉強しなさい」ばかり言っている大人が急に「勉強するか遊ぶかは自分で决めなさい」と言ったら、そこで矛盾を感じてダブルバインドに陥ることがあるんです。

―なるほど。言われていることを全体で考えてみるんですね。

加えて、その場限りと思って発言したことだとしても、相手によっては以前からの話の流れを引き継いでいて、そこでダブルバインドに陥ってしまう場合があるということです。

―あ、そういえば僕のバイト先の件でも、「相談しろ」は常日頃言われていますが、「自分で考えて判断しろ」はその時だけ言われた気がします。同じタイミングで言われたわけではありません。

そうです。その場の矛盾は多くの人が感じますが、時系列が離れた矛盾については、発言する側も気づかないことが多いですし、言われた側もモヤモヤしやすいんですね。それでうまく意図が伝わらず、疑心暗鬼の状態になってしまうというわけです。メンタルに良くないですよね。

ダブルバインドに影響されないようにするためには相手の言わんとしていることを考える

考える男性

―ダブルバインドって日常的に出てしまいそうで、かつ怖いものなんだなと思えてきました。ダブルバインドに気づいたり、また自分がダブルバインドをしてしまわないためにはどうしたらいいですか?

それは、コミュニケーションの仕方について普段から気を遣う必要がありますね。

―どういう点に気を遣ったらいいですか?

まず、できるだけ一貫した言動や態度を心がけることです。相手によって態度を変えたり、その日の気分や状況で言動や態度が大きく変わってしまうと、知らない間にダブルバインドを引き起こしてしまいます。社会人としても信頼しにくいのも明らかですしね。

―なるほど。自分がダブルバインドをしないために大事ですね。その他にできることはありますか?

はい、これはビジネスマナーにも通じることかと思いますが、相手の言わんとしていることをよく考えるということです。これがダブルバインドを受けないために重要です。

―あれ?エーイさん、先程、相手の発言の裏を考えるようになると心の病になるって言っていた気が…。

そうですね、でもそれはダブルバインドを受け続けた人が無意識に陥る症状のようなものでしたよね。ここで言っているのは、ダブルバインドを受けて心を病まないために、相手の言わんとしていることを考えるということです。

―何が違うんですか?

先程紹介した例では、「自分を害するのではないか」という不安のもとで意図を読もうとしています。でも、不安を感じるようになる前から、相手の真意をそれまでの文脈から引き出して考えることが大事です。相手の立場などをよく考えてみれば、酒井君の例でも「わからないことは相談してほしい。でも、自分で考えて判断できることは自分でやってほしい」ということだとわかるはずです。

―そうか。バイト先の店長は、僕はそのくらいできると期待していたってことですね。

はい。正しく意図が伝わってこそ、言外の期待も愛情も伝わるんです。でも、上手な言い回しをしないと真意が伝わらずにトラブルになるので注意が必要です。文脈や意図を考えることをせず、場当たり的に指示を聞いて対応しようとする人はダブルバインドになりやすいので注意が必要です。指示を出す人も場当たり的な指示はダブルバインドを生じやすいので気をつける必要があります。

ダブルバインドにはポジティブな使われ方もある

食事に誘う男性

実はダブルバインドって、最近はポジティブな方向にも使われるようになっているんですね。

―こんな危ないもの、ポジティブに使えるんですか?

はい。使えますよ。酒井君、この後私のおごりで良いですから、ラーメンかカレーでも食べにいきましょうよ。どちらがいいですか?

―いいんですか?じゃあ、今日はラーメンで。

というのがダブルバインドです。わかりましたか?

―えっ?どういうことですか?全然わかりません。

はい、ここでは「ラーメン」か「カレー」にしばっているんです。でも、食事に「行く」「行かない」の条件が省かれているんですね。自然にこういう聞き方ができれば、普段なかなか思うように動いてくれない人が動いてくれたりするんですよ。病院に行きたがらない人に病院行かせたりとか。

―それは便利ですね。でも、これもダブルバインドなんですか?

はい。矛盾を抱えた選択肢があり、その矛盾を指摘できないまま応答を迫られるわけです。酒井君の場合は「相談する」「相談しない」の選択によらず、結局「叱られる」ところが本来の問題です。選択によって発生する「結局」の部分に問題があるんですが、選択肢が問題のように見えちゃうんですよね。

―なるほど。でも、上手に使えば何か良い方向にも活用できそうな方法ですね。ダブルバインドについてわかってみると、ちょっと叱られたり矛盾を感じた時にも気持ちに余裕が持てそうです。エーイさん、今日はありがとうございました。矛盾なく、ちゃんとラーメン行きましょうね!

もしも上司のダブルバインドにあってしまったら?

ダブルバインドをポジティブに使うのであればいいのですが、上司が部下に対して戦略的に使っている場合は対応がやっかいです。矛盾した異なる指示を与え、思考停止に陥らせ、判断力を奪うことを、嫌がらせや「おれの方が上だ」と思わせる自身の優越感のために使っているモラハラ上司もいることを知っておいてください。

モラハラを職場で受けたり起こしたりしないための対策

もしもそのような上司の下で仕事をしているなら、戦いを挑むより逃げることを選択する方がいいでしょう。上司のダブルバインドをさらに上の上司に相談することもできますが、上司がダブルバインドをしている証拠をいくつも握るのは難しいです。憔悴した気持ちを奮い立たせ相手に立ち向かっていくよりは、部署異動や転職を視野に入れた方が安定した気持ちで仕事をすることができます。

心の病にならないように、ダブルバインドというハラスメントがあることも知って、いち早くそれに気づけるようにしておきましょう。

ダブルバインドを防ぐために言動や態度に注意しよう

ダブルバインドは職場のメンタルヘルスの問題と関連が深いとされており、極力発生しないように努めることが大切です。話の中で一貫した言動を取ることはもちろん、態度や振る舞いから言外に示されるメッセージもあるので注意が必要です。また、相手の言わんとしていることを正しく読み取ることも、誤解や妄想に陥らないためには大切なことです。