「いただけますでしょうか」は正しい日本語か?

「いただけますでしょうか」は謙譲語と丁寧語を使った二重敬語で、現代では間違った日本語だとされています。正しい敬語表現を知っている社会人は相手からの印象も良く、さらに英語でも同様に正しい敬語を使いこなせると一目置かれるでしょう。「いただけますでしょうか」について説明します。

「いただけますでしょうか」は正しい日本語か?

「いただけますでしょうか」はよく耳にする言葉

「資料に目を通していただけますでしょうか?」という日本語をよく耳にします。変な日本語として「こちら〇〇になります」という使い方は間違っているという話題が長い間口の端に上っていますが、今は「いただけますでしょうか」が議論の的になっています。

正しい日本語、特に敬語は一朝一夕に身に着けることも直すことも難しいものです。しかし、だからといって何も努力しなくては敬語を正しく操る社会人にはなれません。今回は問題となっている敬語の中から「いただけますでしょうか」を取り上げます。これを機に敬語、ひいては日本語に対する意識を強くしてみてください。

「いただけますでしょうか」は正しい日本語か?

「いただけますでしょうか」は正しい日本語か?

「いただけますでしょうか」という表現はコールセンターや銀行窓口でも耳にすることがありますが、実は「いただけますでしょうか」は二重敬語のため日本語としては誤りです。日本語として正しくは「いただけますか」です。

「いただけますでしょうか」は二重敬語

そもそも二重敬語は帝(天皇)に対して使われる日本語表現でした。といっても、紫式部や清少納言が生きていたような時代に使われていたのであって、現在では過剰な敬語として誤りとされています。また、相手に回りくどい印象を与えたり違和感を残してしまったりしまいますので、誰が相手であっても二重敬語は避けましょう。

文法から考える「いただけますでしょうか」

「いただけますでしょうか」は「(自分が)もらう」の謙譲語が「いただく」、「~だ」の丁寧語が「です」ですが、疑問形になるので語尾が変化して「でしょうか」となっています。分かりやすく下にまとめましたので、軽く押さえてください。

文法から見る「いただけますでしょうか」

謙譲語「いただく」+丁寧語「でしょうか」=いただけますでしょうか

ちなみに、「いただく」という言葉は他にも「する(させていただく)」「食べる(いただく)」「与える(いただく)」「利用する(利用させていただく)」といった言葉の謙譲語として使われています。正しい日本語を使う社会人になるためにも、併せて覚えておきましょう。

「いただけますでしょうか」の正しい表現「いただけますか」の注意点

お名前をお教えいただけますか

「いただけますでしょうか」が誤った日本語だということが分かりましたが、「いただけますか」も使い方次第によって間違いとなるので注意が必要です。

「いただく」という言葉は物品や行為を受け取る際に使う言葉ですので、「お名前をいただけますか」という日本語は誤りであることが分かります。要は「あなたの名前を私にください」という意味になるので「出来かねます」としか返事のしようがありません。少し前に間違った日本語だと言われていた「こちら〇〇になります」同様に、他人からツッコミを受けてしまう可能性もあるので気を付けましょう。

もし、相手の名前を知りたい場合は次のように訊きましょう。

  • お名前をお教えいただけますか。
  • ご記名お願いできますか。

「いただけますか」の例文

「いただけますか」の他の例文について見ていきましょう。次の3つの例文は正しい「いただけますか」です。

  • 『書類をご確認していただけますか』
  • 『その和菓子を一ついただけますか』
  • 『お手数おかけしますが、メールをご確認いただけますか』

書類をご確認していただけますか

「書類を確認してもらえるか」という文を敬語表現になったのが、上記の文です。

考え方としては「お車」や「ごはん」といった名詞の頭につける美化語としての「ご」を「確認してもらう」につけ、「してもらう」部分を謙譲語の「いただく」に変換、さらに疑問形に変えて完了します。

その和菓子を1ついただけますか

「その和菓子を1つ食べてもいいか」を敬語表現を交えた文にすると上記のようになります。

「食べたい」は「頂戴する」または「いただく」という謙譲語に言い換えられますので、あとは語尾を疑問文にすれば完了です。

お手数おかけしますが、メールをご確認いただけますか

「ごめんね、メールを確認してもらえる?」という文を敬語に直すと上記のようになります。

クッション言葉である「お手数をおかけしますが」を前文におき、接頭語の「ご」を「確認してもらう」につけ、「してもらう」部分を「いただく」に変換、そして疑問形になるよう語尾を整えて完了です。

「いただく」と「頂く」の違い

食事の前に「頂きます」

何気なく使っている言葉ですが、ひらがなと漢字では用いる場面が異なることがあります。「事・こと」や「所・ところ」などなどと同じように使えばよいのか、それともひらがなやカタカナの方が良いのかを知っている方は少ないでしょう。

「頂く」と表記した場合は動詞として用いており、「食べる」の謙譲語を指しています。例えば、「夕飯を頂く」「和菓子を頂く」という表現です。

対して「いただく」というかな表記は補助動詞を意味し、「」これ自体には大きな意味はなく、あくまで語調を丁寧にするために用いられています。例えば「お教えいただけますか」や「ご連絡いただけますか」など大きな意味を持つ本動詞という言葉が直前に来ます。

「いただけますか」の類語

「いただけますか」の類語としてよく耳にするであろう言葉が3種類ありますが、果たしてそれらは正しい日本語なのでしょうか。

「くださいますか」

お土産を手のひらに載せて微笑む女性

結論からいうと、「くださいますか」は日本語として正しいです。しかし、意味合いが似ているように感じますが、実は「いただけますか」とは意味が異なります。そもそも、敬語の種類も違います。

「くださいますか」は「くださる」という尊敬語の活用形です。つまり「与える」という言葉を尊敬語に直したものですので、目上の方が行動した時に使います。一方、「いただく」という言葉には「もらう」という意味を含む謙譲語ですので、自分の行動について使うのが正しい使い方です。

「くださる」と「いただく」

  • 上司が私にボーナスをくださった。→「上司」が主語
  • 私は上司からボーナスをいただいた。→「私」が主語

「よろしかったでしょうか」

レストランのウェイターが注文の確認をする

「よろしかったでしょうか」という日本語は一般的に誤りとされており、正しくは「よろしいでしょうか」です。とはいえ、過去のことを再確認する場合は誤りとはいえず、例えば「(1週間前に約束した)集合時間は14時でよろしかったでしょうか?」というように使っても間違いとはいえません。

間違いと指摘されるのは、現在決めたことに対して過去形で訊き返しているという点です。例えば、レストランでたった今注文したのに「ご注文はカレーでよろしかったでしょうか?」と訊くのは誤りです。また、「よろしかったでしょうか」という訊き方に違和感を覚える人が多いということを覚えておきましょう。

「ご教授願います」

「ご教授願います」は正しい日本語です。少々堅苦しく聞こえますが非常に丁寧な言い方ですので、「お教えください」では物足りない相手に使うと良いでしょう。

また方法や知識などを伺うということは、その分の相手の時間と手間を独占することになるので、煩雑な内容の時にも「ご教授願います」という言葉を使った方がよいでしょう。

英語版「いただけますか」

頼み事をする外人女性

英語における「いただけますか」という表現を知っておきましょう。日本語ほど複雑ではありませんが英語にも敬語があり、ビジネスでは使うシーンも少なくありません。丁寧な文面や言葉は、国籍を問わず好印象です。

「いただけますか」英語への言い換え

  • “Would you (mind) ~?“
  • “I don’t suppose ~?”
  • “Is there any way that ~?”

普通の頼みごとであれば“Would you ~?”でじゅうぶんです。youの前にmindをつければ、より申し訳なさそうに聞こえるため誠意が伝わります。同様に“I don’t suppose ~?”という表現も「無理じゃなければ」というニュアンスを含むため、控えめな態度を示せます。

また、“Is there any way that ~?”は「何卒、これでお願いします」という懇願の意味を含むため、英語での取引等で譲れない時に使いましょう。

「いただけますでしょうか」の正しい表現は「いただけますか」です

今回は「いただけますでしょうか」という文でしたが、日常には数えきれないくらいの言葉があり、それぞれが正しく使われ、正確に伝わっているのかは不明です。正確に伝わらなければいくら言葉を交わしたとしてもお互いの真意はつかめないままでしょう。やはり、聞く側も伝える側も日ごろから言葉を気にし、美しいと思える日本語を磨いておく必要があります。

また、二重敬語や言葉の捉え違いなどは日常茶飯事であり、その正当性や正確性は常に気をつけなければなりません。「そんなの常識だ」などと決めてかかるのは問題を先延ばししているだけです。こうした日本語の誤りというモノはいつしか大きな失態を招きかねません。早々に対処しておくことをお勧めします。

敬語の正しい使い方!ビジネスでも使える敬語マナー