産業医とは?労働者の心身の健康を守る医師

産業医とは、一般的な医師というイメージと違い治療や診察といった医療サービスではなく、医学知識を基にした労働衛生のコンサルティングを行う医師です。従業員が心身ともに健康で働けるように職場の労働衛生環境を改善したり、健康診断の結果をもとに面談を行ったりする産業医について紹介します。

産業医とは?労働者の心身の健康を守る医師

医師というイメージとは少し違う「産業医」

産業医とは少々特殊な立ち位置の医師です。主な仕事は専門的知識に基づく指導や助言、健康管理です。一般的な医師のイメージとは違い、病院ではなく企業の社員として働いていたり、医師免許の他に特別な研修を受けた者しか産業医になれなかったりします。

今回は、治療といった医療行為を基本的に行わず助言・提案が主な業務である産業医についてご紹介します。

そもそも産業医とは?

産業医とは、職場における従業員の健康管理のための専門知識を持った、厚生労働省が定めた要件を満たす医師のことを指します。

1名以上の産業医を配置

産業医制度は1972年の労働安全衛生法によって定められたもので、その後法改正が進み労働者の健康管理等に必要な一定の資格要件を備えた医師であることが条件となりました。産業医は医師の中でも特に専門性があり、近年はメンタルヘルスに関する知識が求められることも多いです。

労働安全衛生法第13条では、「常時50人以上」の労働者を使用する会社では1名以上の産業医を配置することが義務付けられています(注1)。もちろん「常時3001人以上」の労働者を使用する会社では2名以上配置する(注1)というように、事業場の規模が大きくなるにつれ、専任の産業医の配置人数も多くなるように法で定められています。

従業員50人以下の小さな事業場においては産業医を配置する義務はありませんが、事業者は医師に従業員の健康管理を行わせる努力義務があります。

産業医に期待される役割とは?

最近は労働問題がクローズアップされますが、産業医が機能していない状況でしばしば労働者の健康障害が生じている為、産業医は「従業員の健康と労働衛生環境の判断・助言」を期待されています。産業医は人事と連携して、肉体的ないし精神的にリスクを抱えた従業員を洗い出したり、休職や復職の判断、就労に関しての助言などを行います。

職場で労働衛生環境の判断をする産業医

特に近年はうつを始めとする精神病を患う労働者が多くなっており、労働環境や人間関係などに問題がないか厳しい目で見られています。そのため、産業医も個人の事情や現場の雰囲気、人間関係などにより踏み込んで様々な判断をすることが求められています。

例えば、うつを抱えた従業員に対して主治医が「復職して大丈夫」と判断したとしても、産業医は「現場の体質が改善されたとは言えず、再発するリスクが高い。まずは週3日程度から始めるべき」と本人の状態だけでなく現場の状況を踏まえた判断をします。この場合、基本的に従業員と現場の両方を知っている産業医の判断を重視します。

労働環境の安全や衛生を見直す必要性が高まっている中で、産業医の働きはより重要になっています。時代と共に産業医の業務範囲は変わりますが、現在は拡大の一途をたどっているため求められるものも多く、学習し続ける姿勢が大切な仕事だと言えるでしょう。

産業医の仕事とは?

従業員の健康相談をする産業医

労働安全衛生法に定められている産業医の仕事は次の通りです。

産業医は「主治医」と違って医療行為を行うのではなく、従業員の健康状態に合わせた面談・助言を行ったり、組織の従業員が働くうえでの環境づくりを医学的な立場から支援・参画したりすることが主な業務となります。医師というよりは、コンサルタントにイメージは近く、様々な状況を分析して最善と思われる助言・提案をしていきます。そのため、企業の規模によっては必ずしも常駐する必要はなく、委嘱されるケースも少なくありません。

月に一度の事業場巡回

労働安全衛生規則第15条第1項に、産業医は最低月1回は事業場を実際に回って、作業方法や職場環境のリスクの洗い出しや改善状況のチェックすることを定められています。

衛生委員会の構成メンバーになる

衛生委員会は労働者の健康保持を図り、健康不良を防止するための対策などについて調査・審議し、事業者に意見を述べさせるために設置します。産業医は労働者の健康を守るための助言を行います。

衛生委員会には産業医の他にも、事業の実施を統括管理する人、衛生管理者、事業場で働いている衛生に関して経験のある人がメンバーとして選ばれます(注2)。また、衛生委員会の議事録の内容について確認し、捺印します。

作業環境の維持と管理に関する業務

作業環境が原因で生じている、あるいは今後起こるかもしれない健康リスクがないかを調査し、対策を立てたり管理したりします。

健康診断と事後措置に関する業務

健康診断を行う産業医

健康診断を行い、その後面接指導も産業医の仕事です。健康診断のデータからリスク傾向や今からでも可能な対策を分析・提案したり、健康診断で問題があった社員がその後にきちんと対処を行ったかを確認したりします。

日常の健康相談

希望があれば、事業場の従業員からの健康相談を受け付けます。事業者は産業医による健康相談が受けられることを従業員に知らせる義務があり、もしも義務を怠って労働者に健康被害が生じた場合、事業者に罰則が生じる可能性があります。

長時間労働者に対する面談

残業が月100時間を超える長時間労働者の労働状況や健康状態をヒアリングし、業務内容の調整などを企業側に働きかけたり、労働者本人に必要な助言を行います。

労働者の健康を守るために企業に勧告をする

企業に勧告をする産業医

過重労働などの問題が認められる場合や、工場などで有害と思われる作業や材料によって従業員の健康に害が生じる(生じている)と考えられる場合には、企業に対して従業員の安全に配慮した内容に変更するよう勧告を行います。

企業活動の実態を踏まえた上で、生じる可能性のあるリスクについて事業場に勧告し、必要に応じて改善計画の策定などにも関わっていきます。毎月必ず事業場を巡回することになっているのは、実際の現場を見て正確に判断するためです。

休職と復職にかかわる面談

労働者が休職や復職を考える際、適切な措置かどうかを産業医と面談して判断します。

衛生教育&健康教育

事業場の従業員や管理者層に向けた教育を実施します。

衛生教育と健康教育の違い(注3)

  • 衛生教育:法律や行政指導に則って事業場に必要な労働衛生教育に関する助言と指導、労働衛生に関する情報収集・提供など。
  • 健康教育:健康に気を配る職場環境になるよう尽力、生活習慣病・エイズ・喫煙といった健康にかかわる問題の教育・資料作成と担当者の育成、メンタルヘルスと精神病の教育と研修など。

労働者の健康障害の原因調査および再発防止のための措置に関する業務

事業場において労働者の健康被害が生じた場合、原因調査を行い、個人ではなく事業場の環境にその原因が認められると判断した場合には再発防止に関して提案したり、改善のための処置や計画に参加します。

労働者の健康被害を調査する産業医

産業医は普通の医師より待遇が悪い?

産業医が病院勤務の医師よりも給与面での待遇が悪いという話がありますが、勤務医とは職務内容が違うので単純に比較はできません。また、どのような規模の企業とどのような内容で産業医契約を結ぶかでも大きく変わってきますので、一概に待遇が悪いとはいえません。

産業医には臨床の重圧が無いことや、夜勤や救急などの対応が無いことなどにメリットを感じるという人も多いです。逆に長く臨床を離れるため、病院勤務には復帰しにくいと感じる方も専任産業医の中には少なくありません。また、専任ではなく委嘱の産業医の場合には、普段は病院勤務で月に数回事業場を訪問して産業医活動を行うという場合もあり、複数社を掛け持ちして働くことも出来ます。

常勤の専任産業医になるケースでは年収が800~1,000万円委嘱をする場合は企業規模によって数万円~十数万円程度で受け負い、委員会への参加などの有無でプラスアルファがあるというのが一般的です。

どちらにせよ、産業医のニーズが高まる一方で専門的な人材の不足が深刻化しており、その解消のために産業医の待遇改善を考える機運も高まってきています。

産業医になるためには?

現在のところ産業医になるためには、医師免許を持った医師であることに加えて、以下のいずれかを満たすことが求められます。

  • 「日本医師会の産業医学基礎研修」を修了している
  • 「産業医科大学の産業医学基本講座」を修了している
  • 「労働衛生コンサルタント試験」の合格者である
  • 大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師をしている(していた)

こうした条件を備えた上で事業場と産業医契約を結び、労働基準監督署に届けを出す必要があります。

昔は医師であれば誰でも産業医になれましたが、今は労働衛生管理にはより専門的な知見が必要とされており、医師の中でもより高い専門性が求められます。

産業医とは重要性が高まっている注目の職業

産業医は、労働者の健康管理が適切になされる労働衛生環境を作るために、医学的知識だけでなく、事業内容に対する深い理解や、環境改善のための提案力やリーダーシップも必要とされる専門職です。

まだまだ認知度が低く、企業内の医師という印象を持っている人も多いですが、その主な業務範囲は医療サービスではなく、従業員への助言や労働環境の改善にあります。労働問題が複雑・深刻化し、ひとつの問題が企業イメージを大きく損なったり、事業の継続性に関わるケースも少なくないために、歯止め役として大きな期待がかかっています。

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